5. 大阪・香里団地での試み

「コミュニティベネフィット」の観点から、URで実際に実践した大阪府枚方市の香里団地D51棟での「デゴイチプロジェクト」と銘打った事例をご紹介します。そこではあらたにエレベーターをつけて建物全体を改修するという計画が進められていました。この機会を活かして、ただエレベーターをつくるだけでなく、足元の共用空間にも手を加えて「コミュニティベネフィット」を生み出すという試みが行われたのです。

香里団地 D51棟エントランス

D51棟で「コミュニティベネフィット」を生み出すために、環境のデザイン手法として応用されたのが「アフォーダンス」という心理学の考え方でした。人は自分の意志ですべての選択をして行動しているように思われがちですが、実は、気がつかないうちに「環境に従って行動している」というのがアフォーダンスの考え方です。むやみにコミュニティ空間をつくってみても、人はそこに集まって関係を持つことにはつながらない。アフォーダンスの考えにもとづくと、人が必然的にそこに集まる環境をデザインすることが大切だということになります。「デゴイチプロジェクト」でいえば、エントランスという必ず住人のみなさんが通る空間を、誰もがときめいてしまうくらい素敵で、最高に心地のいい場所にできれば、住人のみなさんは必然的にそこで関わりあうようになるというように考えるわけです。ただ広場をつくって、そこを活用したイベントを企画して人為的に参加させようとしても人はなかなか集まってこないものです。そうではなく、アフォーダンスの考えにもとづいて人が関わる道理をデザインする。その必然として人間関係を生みだす。「コミュニティベネフィット」を実践するためにはこのアフォーダンスの考え方がとても大切になります。

タネ団子から育ったお花の手入れ

こうして進められたデゴイチプロジェクトですが、その中で最も盛り上がった場面は、「タネ団子」という花壇づくりのプログラムでした。粘土状の土を小さなお饅頭くらいの大きさにまるめて、そこに肥料を練り込み、そのダンゴに種をまぶすのですが、この手でこねる作業をするだけで誰もが子供のように面白がり、それをみなさんで花壇に植えるのです。すると、しばらくの間ずっと水やりをしなければいけないのですが、自分たちが植えたタネ団子を育てようと、独自に当番をつくって育てるようになりました。そうしてお花の成長とともにだんだんと人間関係が深まり、広がっていったのです。

D51棟のアプローチガーデン(撮影:角田和範)

この「デゴイチプロジェクト」のことをご紹介すると、もともと濃厚な人間関係があった団地だから成功していると考える人がいるかもしれませんが、それはまったく違います。実は、必ずしもエレベーターの設置が全ての住人に喜ばれているというわけではありませんでした。中には、エレベーターが自宅の玄関近くに設置されることを懸念される方もいらっしゃいましたが、他の参加者と一緒にプロジェクトに関わるうちに、周りの他人が喜ぶ姿を見て感動するというエピソードまで生まれました。みんなが賛成することはまれで、意見が分かれることが多いというのが、コミュニティの面倒なところでもありますが、暮らしの日常の環境をよりよくして、アフォーダンスという原理を作用させてそれを乗り越えていく。URのような緑の空地が多く、豊かな環境に恵まれた団地では、こうして環境をいかして、コミュニティを機能させていくという取組みがとても適しているということを、デゴイチプロジェクトでの試みを通して強く感じました。

お披露目パーティーの様子

デゴイチでの住人どうしの関係は、どこまでも拡張していき留まることを知らず、香里団地で動き始めたコミュニティは今後も維持されていくことだろうと思います。そして、このコミュニティが自分たちの暮らしの場を豊かにし、その豊かな環境がさらにコミュニティの関係性を深めていく。そして、そのコミュニティが住人ひとりひとりにとっての幸福感を担保している。こうした動的にどこまでも発展し続ける実態こそがコミュニティの本質であり、こうしたコミュニティを機能させることが、閉塞した現代の暮らしを見直す上で求められているのだと思います。

本日お話したことが、未来の暮らしを考える際に役立てば、本当にうれしいと思います。どうもありがとうございました。

甲斐徹郎
1959年生まれ。株式会社チームネットを設立して、多くの環境共生プロジェクトを手がける。また、個と個の関係性を連鎖させることによって豊かなまちづくりを実践するプログラムをいくつも開発し、幅広い分野で活躍。著書に『人生が変わる住まいと健康のリノベーション』(新建新聞社)、『不動産の価値はコミュニティで決まる』(学芸出版社)、『まちに森をつくって住む』(農文協)、『自分のためのエコロジー』(ちくまプリマー新書)など。

※2018年10月、大阪・阪急うめだホールでの『URひと・まち・くらしシンポジウム』内で行われた特別プログラム「コミュニティとテクノロジーが織りなす「なつかしい未来」-「自立」と「共生」の両立とは-」の内容を再構成したものです。 構成:竹内厚

5. 大阪・香里団地での試み

「コミュニティベネフィット」の観点から、URで実際に実践した大阪府枚方市の香里団地D51棟での「デゴイチプロジェクト」と銘打った事例をご紹介します。そこではあらたにエレベーターをつけて建物全体を改修するという計画が進められていました。この機会を活かして、ただエレベーターをつくるだけでなく、足元の共用空間にも手を加えて「コミュニティベネフィット」を生み出すという試みが行われたのです。

D51棟で「コミュニティベネフィット」を生み出すために、環境のデザイン手法として応用されたのが「アフォーダンス」という心理学の考え方でした。人は自分の意志ですべての選択をして行動しているように思われがちですが、実は、気がつかないうちに「環境に従って行動している」というのがアフォーダンスの考え方です。むやみにコミュニティ空間をつくってみても、人はそこに集まって関係を持つことにはつながらない。アフォーダンスの考えにもとづくと、人が必然的にそこに集まる環境をデザインすることが大切だということになります。「デゴイチプロジェクト」でいえば、エントランスという必ず住人のみなさんが通る空間を、誰もがときめいてしまうくらい素敵で、最高に心地のいい場所にできれば、住人のみなさんは必然的にそこで関わりあうようになるというように考えるわけです。ただ広場をつくって、そこを活用したイベントを企画して人為的に参加させようとしても人はなかなか集まってこないものです。そうではなく、アフォーダンスの考えにもとづいて人が関わる道理をデザインする。その必然として人間関係を生みだす。「コミュニティベネフィット」を実践するためにはこのアフォーダンスの考え方がとても大切になります。

こうして進められたデゴイチプロジェクトですが、その中で最も盛り上がった場面は、「タネ団子」という花壇づくりのプログラムでした。粘土状の土を小さなお饅頭くらいの大きさにまるめて、そこに肥料を練り込み、そのダンゴに種をまぶすのですが、この手でこねる作業をするだけで誰もが子供のように面白がり、それをみなさんで花壇に植えるのです。すると、しばらくの間ずっと水やりをしなければいけないのですが、自分たちが植えたタネ団子を育てようと、独自に当番をつくって育てるようになりました。そうしてお花の成長とともにだんだんと人間関係が深まり、広がっていったのです。

この「デゴイチプロジェクト」のことをご紹介すると、もともと濃厚な人間関係があった団地だから成功していると考える人がいるかもしれませんが、それはまったく違います。実は、必ずしもエレベーターの設置が全ての住人に喜ばれているというわけではありませんでした。中には、エレベーターが自宅の玄関近くに設置されることを懸念される方もいらっしゃいましたが、他の参加者と一緒にプロジェクトに関わるうちに、周りの他人が喜ぶ姿を見て感動するというエピソードまで生まれました。みんなが賛成することはまれで、意見が分かれることが多いというのが、コミュニティの面倒なところでもありますが、暮らしの日常の環境をよりよくして、アフォーダンスという原理を作用させてそれを乗り越えていく。URのような緑の空地が多く、豊かな環境に恵まれた団地では、こうして環境をいかして、コミュニティを機能させていくという取組みがとても適しているということを、デゴイチプロジェクトでの試みを通して強く感じました。

デゴイチでの住人どうしの関係は、どこまでも拡張していき留まることを知らず、香里団地で動き始めたコミュニティは今後も維持されていくことだろうと思います。そして、このコミュニティが自分たちの暮らしの場を豊かにし、その豊かな環境がさらにコミュニティの関係性を深めていく。そして、そのコミュニティが住人ひとりひとりにとっての幸福感を担保している。こうした動的にどこまでも発展し続ける実態こそがコミュニティの本質であり、こうしたコミュニティを機能させることが、閉塞した現代の暮らしを見直す上で求められているのだと思います。

本日お話したことが、未来の暮らしを考える際に役立てば、本当にうれしいと思います。どうもありがとうございました。

甲斐徹郎
1959年生まれ。株式会社チームネットを設立して、多くの環境共生プロジェクトを手がける。また、個と個の関係性を連鎖させることによって豊かなまちづくりを実践するプログラムをいくつも開発し、幅広い分野で活躍。著書に『人生が変わる住まいと健康のリノベーション』(新建新聞社)、『不動産の価値はコミュニティで決まる』(学芸出版社)、『まちに森をつくって住む』(農文協)、『自分のためのエコロジー』(ちくまプリマー新書)など。

※2018年10月、大阪・阪急うめだホールでの『URひと・まち・くらしシンポジウム』内で行われた特別プログラム「コミュニティとテクノロジーが織りなす「なつかしい未来」-「自立」と「共生」の両立とは-」の内容を再構成したものです。 構成:竹内厚