シリーズ:家ってなんだろう
車をDIYした「モバイルハウス」で
移動しながら仕事&暮らしを。

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#2 モバイルハウスにひそむ哲学

好きな場所へ移動しながら仕事ができて寝泊まりができる、次世代の家「モバイルハウス」を作っている西村周治さん。今回は、そのモバイルハウス哲学を紐解いてみたいと思います。


古びて人が住めなくなったような物件を購入してDIYで修繕して賃貸可能にするため、物件から物件へ、作業場から作業場へと移動しながら働く西村さん。その生活の中から生まれた「モバイルハウス」は、まさしく多拠点生活・仕事のツール。(モバイルハウスができるまでについては、vol.1を参照。)あえて、辺鄙な場所にある物件ばかりを購入している、西村さんの仕事マインドはどんなところにあるのでしょうか?

モバイルハウスをバックに。机とイスを外に出して、屋外でのモバイルワーク。「気持ちいいですよ。ネット環境が整えばどこでも仕事できます」と西村さん。

ー影響を受けている考え方ってありますか?

西村::『モバイルハウス三万円で家をつくる』の著者坂口恭平さんの考え方や動く家に、もともと興味があったんです。モバイルハウスを自分で作ってみたのも、その辺りの文脈があるかもしれません。あと、自分が所有している古い家も「不動産」ではなくて、「動産」と考えています。ひとつの家にそこまで投資しないのがいいのではないかと。

モバイルハウス制作者の西村周治さん。

ー「動産」って面白い考え方ですね。家を動かしていく、ということでしょうか?詳しく教えてください。

西村:今の幸せの理想像って、大きな家を無理して買って、大金をかけてそれに投資して、そこ一つで幸せを見つけましょうみたいなところがあると思うんですが、それはとてもリスクがあることだと思ってます。現にリーマンショックで不動産はある日突然、資産価値が半減したし、震災などによって家が失われてしまうかもしれません。今、僕が家族と住んでいる場所は坂の上の一軒家ですが、交通が不便なうえに廃屋のようになっていたので価格も激安、そこをDIYで修繕して住んでいます。
僕自身は、家に多くの機能を求めていません。家ってすごいもんで、一つの機能追加するだけでコストにはねかえってきます。たくさんの機能がもともとなくても、身体が多少家に合わせていけばいいと思うんです。不便な箇所はDIYで作り直したりして、自分で解消していけば、自分達らしい暮らしの形が作れると。みんな求めすぎちゃうんですよ、家に対して。ひとつだけに想いを投入しない方がいいのではないかというのはありますね。
家でやっていることって、寝て、ご飯を食べて、ちょっと休憩するだけです。過度に家に機能を求めずに、シンプルな生活で少ない消費でも幸せな生き方はあると思います。この思考の延長で、僕は廃屋とモバイルハウスを取り扱っています。僕は高額な家のために働かされるのも嫌だし、ゆっくり働くために、安い家を買ってDIYで修繕して終わったら人に貸すということを生業としています。ひとつひとつの家にコストがかからないとなれば、みんな何度でも引っ越しができるし。僕も実際に、家族で引っ越しを繰り返しています。

生活空間でもあり、仕事空間でもあり、休憩空間でもある、移動する「多機能なハウス」。

ーなるほど。確かに、贅沢は贅沢を呼ぶ、というか、身体を家に合わせていけば心地よく暮らせるというのは、わかるような気がします。

西村:アメリカの西海岸などではこういう暮らしをしている人がけっこういるみたいです。向こうでは、土地の値段が高く、大きな家を建てることが難しいため、家がなくてもよしとするカウンターカルチャーが育っています。それが、小屋のような家や生活に必要な最低限の家具や設えだけをもった「タイニーハウス」という文化です。そう考えると、日本でも、業者が値付けした町中の家を高く買うよりも、誰も見向きしないような廃屋を安く買って、自分で改修していく。しかも家と家の間を移動できる、モバイルハウスがあるというのは、もしかしたら、とても豊かな生活なのではないかと思ったりします。

ーちなみに、身軽な状態でいつでも引っ越しするためには、賃貸でも可能だと思うのですが。西村さんが物件を購入するのはどうしてですか?

西村:賃貸って、自分で建物に手を入れることができないので、そこに自分が介在できないと思うんです。買うと何でもできるようになる。でも、“カリグラシ”なんですよ、根本に流れている考え方は。所有しているのではなく、借りて生活しているという感覚です。いずれまた誰かが借りて住むかもしれないし。ずっと仮住まいだと思っています。僕の妻も、かつての阪神大震災で家が崩壊しています。家っていずれは土になるものなんですよね。
かつて長屋の賃貸に住んでいた時に、再開発で出て行けと言われた経験があって。自分で作り上げた空間が簡単に人の手にゆだねられてしまう悲しさがありました。所有しなければ一時のものになってしまうというその経験から、手放すタイミングは自分で決めたいという想いもありますね。

取材もアウトドアで。

ー西村さんの考え方を聞いていると、なんだか何でもできるような気持ちになってきました。これから考えていることがあれば教えてください。

西村:建物の値段がつかないような家が神戸市内でもまだたくさんあります。そういう物件を低価格で買って、自己修理して、自分が住んだり、人に貸したり。兵庫県民がみんな、これをやっていけたら空家問題は解決するのでは、と思ったりします(笑)。これからは新築を高く買う時代は終わって、古くて安い家を修理してより良くして、価値付けしていくのは、家にも自分たちにとってもいいことなのではないでしょうか? こんな考え方がもっと広がっていけば面白いなと思います。

西村周治
兵庫県塩屋在住。建築設計事務所に務めた後、一時ラーメン屋に勤めていたことも。現在は、神戸R不動産での不動産仲介業と不動産オーナー業を並行して進めている。

取材・文:小倉千明  写真:平野愛

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