シリーズ:家ってなんだろう
自宅兼カレー屋は
生活と仕事が重なりあう実験の場

# # # # # # # #

#1 店だからこそできる実験を

JR阪和線南田辺駅から徒歩約5分。トタン板に「nimoalcamo(ニモアルカモ)」と書かれたこの場所は、週末に不定期でオープンするカレー屋さん。
現在の状態になるまでに15カ月を要したこのお店は、近所では、なかなか完成しないところから“サグラダファミリア”とも呼ばれていたそうな…。そう、ただのカレー屋さんじゃないんです。


自宅のキッチンがいつの間にか店舗に

長屋や昔ながらの一戸建て、新築マンションが混在する住宅を通り過ぎて、細い路地に入ったところで、なにやらスパイスのいい香りが漂ってきました。

オーナーの古市邦人さん。普段は会社員、週末時々カレー屋オーナー。

正社員として働きながら、週末不定期でカレー屋「ニモアルカモ」を営んでいる古市さん。どういう経緯で、この店をオープンしたのでしょうか。
コトの始まりは、3~4年前。地域の子ども達がいろんな人に出会う機会となる寺子屋をつくるために小豆島へ移住しようと考え、小豆島の島マルシェに出店。1年半ほど定期的に島へ通う日々を過ごした後、現職の大阪での仕事に力を入れることに決め、小豆島への移住は断念した。

古市:島マルシェで使っていた移動販売車がもったいなくて、カレーをつくって売ろうかなと考えました。そのためにカレーを仕込むことができる場所を探していて、自由に使える今の物件に出合いました。

住宅街の真ん中で、お店としてはどちらかといえば不便な立地だが、当時は店舗をやるつもりはなく、最低限の排水や換気だけ整えたキッチンのみつくる予定だったので、立地へのこだわりはなかったそう。

古市:キッチンからDIYでつくり始めたのですが、平日は仕事をしながらの作業だったうえに、つくっているうちにこだわりが出てきてしまって、半年で完成する予定がなかなかできなくて。その間に、僕がDIYをしている様子を見たご近所さんから「何ができるの? 楽しみにしているね」と期待のまなざしで声をかけられることも増えてきて、いつの間にか「カレー屋です」と答えてしまってました(笑)。結局、15カ月かかって、いつの間にかお店ができました。

もともと倉庫だった物件。DIYの様子が2冊の日誌にまとめられている。「基礎づくりの建築的な部分は、プロの大工さんに教えてもらいながら学び、残りは自分でつくりました」と古市さん。

オープンは、2017年6月。完全DIYで作り上げた店内。もうプロ級のお仕事。

カウンター8席、幅広めの1人掛けソファ席が2席あり、赤ちゃん連れのママもゆっくり過ごせる。

長野県にある「青空屋台」さんに伝授してもらったカレーレシピ。

道路に面したカウンターは、通りすがりの人と目が合う。町の日常が流れて行く。

週末カレー屋でのトライと学び

ニモアルカモは、お客さんの過ごしやすい環境や空間づくりを古市さんが研究する場でもあって、お店の営業を続けるなかで学んだことをネット上のnoteに書いて公開している。マーケティング編、BGM編、家具選び編、空間づくり編などなど。

オープンしてから約2年間、とりつづけているアンケート。ニーズと満足度を細かく調べる代わり、答えると100円引きに。

アンケート結果をグラフ化。「月に3日しか空いていないけど、食べログ3.5目指しています!」と古市さん。

古市:仕事としてはキャリアカウンセラーとして就労支援を行っているのですが、ニモアルカモで学んだことを職場のカウンセリングスペースの音環境や空間づくりに活かしています。ニモアルカモはお客同士の距離が比較的近いため、多少の雑音がある方が、お互いの会話の内容を気にせずに過ごすことができます。例えば、キッチン内の換気扇をわざとつけて、無音の状態をつくらないようにしています。同じように、カウンセリングをする時には隣りの音が気になりやすいので、人に届く音の距離をアレンジすることで、話しやすい環境でカウンセリングができるようになりました。

また、ニモアルカモは、職場体験の受け入れ先としても活用されている。小豆島で寺子屋こそ実現しなかったが、自らつくりあげたカレー屋を活用して、古市さんは、学びの場も提供している。

インタビューは玉ねぎを切りながら。

古市:職場体験の受け入れを始めたのは、体験者さんがここでうまくやれたら「あ、できた。次もできるかもな」とそういう風に思ってもらいたいから。一度、いい体験ができれば、次の機会を信じることができるようになる。その一番最初のいい出合いをつくりたいんです。たとえば、引きこもりをしている人も、社会と悪い出合い方をしているだけだと捉えています。
一度のいい出合いは、次のいい出合いにつながる。つまり「1があれば2もあるかも」という想いから、この店をニモアルカモと名付けました。それが人生で一番大事なことなんじゃないかって。

大阪の釜ヶ崎では、カレーの炊き出しと肩たたきをするボランティア活動も。「ホームレスのほとんどの人はいい人。参加者が実際に触れ合って、いい人を知ることで、悪い先入観をなくせるきっかけにしたい」と古市さん。

不定期カレー店として営業しながら、マーケティングに、就労支援に、炊き出しにと一介のカレー屋にあらず。そして、店の2階に暮らす古市さんの住まい方も気になるところ。次回、その居住スペースを拝見しながら、家への考えについてもお聞きします。

取材・文:小倉千明  写真:平野愛

12