01. ワン・ビンの『苦い銭』

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「いい顔」が見たい。働くおっちゃんやおばちゃんの顔とかを、飲み屋で、テレビで、映画館で、「めっちゃいい顔してんなぁ」って眺めていたい。

『家、ついて行ってイイですか?』というテレビ番組が好きだ。終電を逃した老若男女に声をかけ、「タクシー代を出す代わりに家の中を見せてくれ」と頼む。それ以上に理由がないから被写体となる人々もどこか気軽な感じだ。赤裸々な暮らしぶりと、無防備で愛くるしい人々の素の顔がちょうどいい。何というか、見てるこっちが優しい気分になれる。

中国のドキュメンタリー映画『苦い銭』は名匠ワン・ビン監督が「出稼ぎ先、ついて行ってイイですか?」と聞いたかどうかは知らないが、個人経営の縫製工場で働く出稼ぎ工員たちを、職場から寮生活まで密着して映し出す。

タイトルからすると劣悪な中国の労働環境を告発するような内容に思うかもだが、経済発展の中国でふわふわしちゃってる女の子や、若いカップルの終わらない痴話喧嘩や、自信喪失しまくってて逆に笑いを誘う若者や、勝手に失恋してるオッサンなど、ひたすら無防備に「いい顔」が映し出される。みんなよくもまぁ自分勝手な主張をしまくるし、ガツガツと暮らしている。字幕だからわからないが「このおっさん、ダジャレ言ってそう」とかニヤニヤ笑って油断していると、巨大団地みたいに労働者の寮でいっぱいの風景にドキッとするし、工員たちが夜、部屋でスッと一人になる時の顔に胸をえぐられる。
言い訳ばっかりで怠け者のオジさんが、酔っ払って職場で大騒ぎした後、寮で毛布をズッポリ被って身を丸くして眠る姿が忘れられない。大阪でも見たことのある場面だった。

INFO
『苦い銭』
監督:ワン・ビン
公開は大阪・第七芸術劇場2/24(土)〜、神戸アートビレッジセンター3/10(土)〜、京都シネマ3/31(土)〜、他
http://www.moviola.jp/nigai-zeni/

 
西尾孔志
1974年大阪生まれ。2013年に『ソウル・フラワー・トレイン』で劇場映画デビュー。2014年『キッチンドライブ』、2016年『函館珈琲』の他、脚本作品に『#セルおつ』なども。OURS.では、カリグラシTVを担当。

*カリグラシTV
http://ours-magazine.jp/karigurashitv/akichi-1/
*インタビュー記事
http://ours-magazine.jp/borrowers/nishio-01/