05.『枝葉のこと』
『犬ヶ島』が公開中のウェス・アンダーソン監督はこのテーマを何度も描いていて、特にビル・マーレイが自意識過剰な海洋ドキュメント監督を演じる『ライフ・アクアティック』では、涙腺決壊どころか嗚咽が止まらず、いい大人がウエッ、ウエッ、としゃくりあげるものだから他のお客さんに迷惑をかけたと思う。ごめんなさい。
子供にとっては親が自分の将来像に見える時があり、特に親のダメな部分はクローズアップで見えてしまう。自分はこんな風にはならないと誓いつつも、その血が自分にも流れている事実は子供にとって軽くホラーだ。僕だってそうで、そもそも僕の「孔志」という名前は父が中学生の頃に名乗っていた名前らしく(僕は「孔志Jr.」なのだ!)、「もう呪いじゃんソレ」と思う。しかも「孔」は「あな」とも読めるので「孔を志す」ってギャンブラーかよ! と苦笑してしまう。
22才の冬、僕が東京でダメ助監督として大きな挫折感を味わっていた頃、母から電話があった。
「お父ちゃんが家に帰ってこおへんねん。」
すぐ上司に辞職を伝え、大阪の実家に戻った。父は家にいて特に変わった様子はなかったが、何かを諦めるタイミングなのだと妙に納得し、父が一人でやってる金属加工の工場で働き始めた。鉄粉と油まみれになった僕の作業着は、子供の頃に嗅いだ父の匂いがした。大阪の下町にある町工場は、自分にとって原風景でもあり、廃墟とか錆びた建物が好きな自分の感性にも合った。で、このまま工場で働くのも悪くないと思い始めた頃、父が失踪した。
©Kurinke
©Kurinke
しかし、「暮らしがそのまま映画になる」という場合もある。そこに住む人の暮らしをただじっと見つめることで、他人に簡単には説明できない感情を浮きだたせる。
例えばドキュメンタリー映画にはそういう傑作が幾つかある。このコーナーでも紹介したワン・ビンや想田和弘といった監督の作品は、暮らしそのものが映画のメカニズムに取り込まれた映画と言っていいかもしれない。映画の中に描かれた暮らしを観るんじゃなくて、スクリーンに暮らしそのものが映っている。それを「映画」と呼んで鑑賞する。そういう感覚。そしてその1本に、俳優で映画監督の二ノ宮隆太郎による『枝葉のこと』を加えたいと思う。
©Kurinke
©Kurinke
『枝葉のこと』の結末を観て、僕はあの日、父に何と言うべきだったのか、そんなことを考えた。
INFO
『枝葉のこと』
監督・脚本・主演:二ノ宮隆太郎
出演:松本大樹、木村知貴、新井郁、いまおかしんじ第七藝術劇場で6月2日(土)より、神戸アートビレッジセンターで6月9日(土)より公開
http://edahanokoto.com/
西尾孔志
1974年大阪生まれ。2013年に『ソウル・フラワー・トレイン』で劇場映画デビュー。2014年『キッチンドライブ』、2016年『函館珈琲』の他、脚本作品に『#セルおつ』なども。OURS.では、カリグラシTVを担当。
*カリグラシTV
→http://ours-magazine.jp/karigurashitv/akichi-1/
*インタビュー記事
→http://ours-magazine.jp/borrowers/nishio-01/