07. 『ゲンボとタシの夢見るブータン』

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思っていた映画と違った。
なぜか、学校帰りに制服のままミニシアターでハル・ハートリーとかピーター・グリーナウェイとか観てた高校時代を思い出した。あと、よくしゃべる親父のことも。
 
観る前は「過酷な環境や貧しさの中でも挫けない、庶民のバイタリティを描いた《映画祭で賞を獲りそうなアジア映画》」か「TVの『クレージージャーニー』の映画版というか、驚きの風俗風習をカメラで捉えた《秘境の観光映画》」のどちらかだろうと思っていた。
 
確かに半分くらいは前者のアジア映画のテイストだった。しかし、所々でアメリカやヨーロッパの青春映画のような息をのむ瑞々しい場面があり、驚いた。推測だけど、ブータンの男性監督とハンガリーの女性監督のコンビによる共作のせいだろう。それぞれが享受してきた映画的感性が上手くミックスされているのではないか。で、この二つのテイストが親(アジア映画)と子(青春映画)の世代の違いにも繋がっていて面白い。

(C)ÉCLIPSEFILM / SOUND PICTURES / KRO-NCRV

ブータンに古くからある、とある寺院。先祖代々、僧として受け継いできた父親は、息子・ゲンボにも継がせたいと思っている。だから普通の高校を中退させて、僧の学校へ行くようゲンボを説得する。でも、ゲンボのモヤモヤした気持ちを妹のタシがスッキリ代弁してくれる。
 
「規律の厳しい僧の学校に行くと、女の子とヤれないよ」と。

(C)ÉCLIPSEFILM / SOUND PICTURES / KRO-NCRV

彼らは米国ドラマに出てきそうなティーンエイジャーだ。なんせお寺の子供なのに一人称視点の戦争TVゲームにハマってて(殺生しまくり)、二人してサッカーが大好き。兄のスマホには大人びたセクシー写真をFacebookにアップしてるクラスの女の子たちから、思わせぶりなメッセージが届いてる。妹タシは、言葉にはしないけどトランスジェンダーで、「女らしい」ことが嫌い。兄妹で、前から歩いてくる女子のどっちと付き合いたいか、なんて仲良く会話をしてる。将来の仕事とか、男らしさとか女らしさとか、そういう何者かになることを避けるために、兄妹は遊びに熱中している。

(C)ÉCLIPSEFILM / SOUND PICTURES / KRO-NCRV

この二人を追う時、カメラは瑞々しい輝きを増す。特に、妹がサッカーのナショナルチームの選考合宿に参加する場面で、ティーンの女の子たちと無邪気に川遊びしたり、アイドルソングを振り付きで歌って見せたりする姿は、大人になる手前のかけがえの無い時間が持つ輝きとエロティシズムが宿っていて、印象深いシーンとなっている。

(C)ÉCLIPSEFILM / SOUND PICTURES / KRO-NCRV

一方で、両親や家族の描写はヒューマニズムあふれる温かい場面となる。父親は古風で真面目。信心深さからか、ついつい宗教にまつわる長話をしてしまう。話が長いので、小言を聞いてる息子が居眠りしだす場面は笑ってしまったが、僕が子供の頃に町内会会長とか子供会の世話役とかやってるお人好しのオジさんにこういう人いたなぁ、と微笑ましく観た。

(C)ÉCLIPSEFILM / SOUND PICTURES / KRO-NCRV

急速に進むグローバリズムの中、親と子の世代の価値観の違いがこの映画のテーマの一つなんだけども、決して子供たちは親を憎んでるとかではなく、どこか尊敬の念も感じられる。例えば、父は地元の大きなお祭りで、代々《道化》の役を務め、それを誇りに思ってるようなのだが、それは、大きな木彫りの男性器で観客の頭をコツンコツン殴るというもの。無病息災を祈ってるんだろうけど、大きな男性器のオブジェを手にニコニコしてる父の姿はかなりクレイジー。現代っ子の兄妹は父の姿を遠巻きに見ながら笑っている。でも馬鹿にしてる感じではなく、どこかそういう父の滑稽さに好感を持っているように見えた。

(C)ÉCLIPSEFILM / SOUND PICTURES / KRO-NCRV

そういえば、彼らの家に大きな薄型テレビがあるんだけど、木の額縁に収納してあって、それがブータンの民族衣装みたいなカラフルな色使いでカワイイ。海外のサッカーを放送する最新テレビを、伝統的な木彫りが輪郭を縁取る。ちょっと象徴的だなと思った。そんな風に、まだ何者にもなってないゲンボとタシに、いつか輪郭が与えられていくのだろう。素敵な輪郭だったらいいな。
 
自分の場合、受験勉強の合間に、将来への不安を一瞬忘れさせてくれるのが映画館だった。気がついたらもう、兄妹の父親のように、話が長いオジさんという輪郭が付いちゃってる。

INFO
『ゲンボとタシの夢見るブータン』
監督:アルム・バッタライ、ドロッチャ・ズルボー

第七藝術劇場にて8月25日(土)より、出町座にて9月1日(土)より公開
その他、元町映画館ほかで全国劇場ロードショー
https://www.gembototashi.com

西尾孔志
1974年大阪生まれ。2013年に『ソウル・フラワー・トレイン』で劇場映画デビュー。2014年『キッチンドライブ』、2016年『函館珈琲』の他、脚本作品に『#セルおつ』なども。OURS.では、カリグラシTVを担当。

*カリグラシTV
http://ours-magazine.jp/karigurashitv/akichi-1/
*インタビュー記事
http://ours-magazine.jp/borrowers/nishio-01/