09.『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』

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このコラムでは珍しいホラー、しかも映画じゃなくて配信ドラマである。ただし、怖さに重点は置かれていない(怖いけど)。実は「家と家族」についての重厚で感動的なドラマだったりする。

「大きな古い屋敷に《何か》が棲みついている」というのはホラーの定番の一つ。Netflixのオリジナル・ドラマシリーズ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』はお屋敷ホラーの古典小説の数度目の映像化。過去には『サウンド・オブ・ミュージック』や『ウエスト・サイド物語』で有名なロバート・ワイズ監督による映画化(邦題『たたり』)もあり、これはのちにJホラーに影響を与えたほどの怖い映画だから取扱注意。

だが今作は、もはやオリジナルドラマと呼んで良いくらい改変が加えられている。大きなお屋敷に引っ越してきた家族が怪奇現象に出会うストーリーに加え、お屋敷を去ってから二十年くらい経過した「その後の家族のストーリー」が、時系列を行ったり来たりして同時進行で語られる。要素で言うと「あの日、本当は何があったのか?」と謎に近づいていくミステリーの要素と、「家族とはどうあるべきか」を問うドラマの大きな2つの要素が、ホラーというジャンルの中で絡み合い、ダイナミックに観客を引き込んでいく。

あらすじはこんな感じ。
子供時代、住んでいた洋館「ヒルハウス」で何か強烈な霊体験をしたはずだが、「子供の頃のあやふやな記憶だから」と無かったことにして暮らしている5人の兄妹。それぞれ別居中だったり、麻薬中毒の矯正施設に入っていたり、情緒不安定だったり、ワンナイトラブばかりの荒れた生活をしていたりとバラバラ。会うと対立ばかりしている。しかしある悲しい事件がキッカケとなり、兄妹とその父は再び「ヒルハウス」と「あの惨劇の夜」に立ち向かう事になる。それは「家族」ともう一度向き直す作業となるのだった…。

近年のドラマや映画において「家族」というものは「当たり前にあるもの」…ではない。それは「疑ってかからなければならないシステム」になりつつある。個人が優先され、家族はバラバラである事がもはや現代ドラマの大前提と言っても過言ではない。それどころか家族は自分らしく生きたい子供達にとって「呪い」となる事だってある。「毒親」という凄い言葉だって登場してきた。だから近年のドラマや映画や漫画などの物語は、「古い慣習との戦い」や「ジェンダーとの戦い」などの、個人の自由を獲得するための戦いというテーマの為に家族を壊す方向で描くことが多かった。

「家」というものは強引に言えば「家族が暮らす場所」である。なので、このドラマで大きな古い「家」は超自然的な意思を持ち、「家族はこうでなければならない」という方向に怪現象を起こす。まるで毒親の呪いのように、子供たちを家に閉じ込め、家族を守り続けようとする。そう、永遠の時間の中に…。

しかし、家から脱出し、自由になったはずのその後の主人公たちは、全員がそれぞれ心の問題を抱えている。それはまるで、古い慣習をいろいろぶっ壊しちゃったけど、気がついたら帰る場所や所属するコミュニティを失い、根無し草で寂しさを感じて呆然としている、まさに今、リアルな現代人の姿に思える。そこがこのドラマの肝で、「家族」という呪いから脱出した彼らが、もう一度「家族」という関係性を問い直し、取り戻そうする。ホラードラマをを観ていたはずが、実はとても現代的なホームドラマで、最後まで何度も心を揺さぶられた。

最後に、個人的な家の思い出を。
九州に父方の祖母が住んでいて、小さい頃、夏休みに家族で帰省する事が何度もあった。イトコの一家も同じタイミングでやってくるので、子供だけで家中を走り回った。祖母の家は老人の一人暮らしにちょうど良い、小さな家だった。しかしそれは僕の思い込みで、イトコ達と隠れん坊をしていた時のこと、僕は押入れに隠れようとして襖を開け、硬直した。そこは押入れではなく、数十畳のだだっ広い和室だった。祖母の生活空間の4、5倍くらいはあった。祖母がすごい形相で走ってきて「ここは開けちゃいかんばい!」とピシャリと閉めた。あれは何だったのか。古い家というものは不思議や秘密があるくらいがわくわくするものだが、願わくば普通の家で静かに暮らしたい…。

INFO
Netflixオリジナルシリーズ
『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』
原作・制作・監督:マイク・フラナガン 出演:カーラ・グギーノ、ミヒウ・ハウスマン、ティモシー・ハットンほか
※Netflixにて独占配信中

西尾孔志
1974年大阪生まれ。2013年に『ソウル・フラワー・トレイン』で劇場映画デビュー。2014年『キッチンドライブ』、2016年『函館珈琲』の他、脚本作品に『#セルおつ』なども。OURS.では、カリグラシTVを担当。

*カリグラシTV
http://ours-magazine.jp/karigurashitv/akichi-1/
*インタビュー記事
http://ours-magazine.jp/borrowers/nishio-01/