ゲストハウスを間借りして
京都と全国をつなげるフリーペーパー専門店!

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京都には多くの書店があるが、こんな変わった本屋は珍しいのではないだろうか。ゲストハウスの一部を借りて、ひと月2日間だけオープンするフリーマガジンのお店「只本屋」。え、フリーマガジンって無料ですよね?無料の冊子を取り扱う本屋って、どういうこと!?

京都の清水五条にある、ゲストハウス「常松庵」の空き倉庫を店舗として利用。清水寺、三十三間堂が徒歩10分圏内という立地にある。(写真提供:只本屋)

毎月の月末土日に、只本屋の暖簾がかかる。店頭に並ぶのは、日本全国中から取り寄せられたフリーペーパーたち。訪れたお客さんは、8冊まで持ち帰ることが可能で、オリジナル紙袋を購入するとその冊数は無制限になる。運営形態がユニークだということで多くのメディアにも取り上げられ、海外のアートブックフェアに招聘されるほどの人気っぷりだ。

運営は、芸術大学生を中心とした有志メンバーによって行われている。(写真提供:只本屋)

店頭に並ぶ、想いのこもったフリーペーパーのバリエーションは300種以上!(写真提供:只本屋)

そんな只本屋も、2018年でオープン3年目を迎える。只本屋のカリグラシ状態の運営理由や京都という土地について、代表の山田毅さんに伺った。

「只本屋」代表の山田毅さん。京都市立芸術大学の博士課程在籍。アート領域に特化したクリエイティブサービスを行う株式会社モーフィングにも属している。只本屋メンバーの中では最年長のため、みなから「師匠」と呼ばれている。

 

舞台演劇をつくるように生まれた、只本屋。

京都の清水五条にある、ゲストハウス「常松庵」。徒歩10分圏内に清水寺、三十三間堂があるという立地だ。

「常松庵」の空き倉庫を店舗として利用。昔ならではの町家が連なる静かな細い路地にある。(写真提供:只本屋)

2013年に東京から京都に移住した山田さんが、仕事の現場で知り合った学生達と、フリーペーパーの本屋をやってみようというイベント的な発想から企画が発足。2015年3月に只本屋はオープンした。
その後、2015年6月にゲストハウス「常松庵」の立ち上げ準備中の大家さんに出会い、山田さん自身も常松庵の裏に住みはじめた。物置きになっていた空きスペースを直すことを条件に場所を使わせてほしいと申し出たところ、快諾。2015年6月から、間借り状態での運営が現在にまで至っている。

プロジェクトであって生業ではないというところが、一般の書店と大きく異なるところだ。(写真提供:只本屋)

今の只本屋の状況は、演劇の舞台に近いと感じています。僕はもともと舞台美術を専門でやっており、何もない空間に物語の世界観を作り上げて、その翌週には何もなくなるようなものをつくっていました。なので、小さな本屋が開いては消え、開いては消え、という方が、常時開いているというものよりはイメージしやすかったです。何もないところを借りて、自分たちの場所を作ってそして去っていくという、その繰り返しだという感覚が只本屋にはあります。イベント出店にも臨機応変に対応できるという、キャラバン的な要素もそうですね。

 

京都で育まれた関係性をつなげて、大切にしていきたい。

只本屋は、東京でもなく大阪でもなく、京都だから興味を持ってもらえていると感じています。京都の街には観光客や旅行客が多く、彼らは、神社仏閣や路地裏や町家といった京都らしい雰囲気や、非日常的なものを求めていると思います。そんな中で、只本屋という本屋の形態は、京都の雰囲気ととても相性がいいと感じています。

只本屋は、間違いなく京都らしい本屋だ。
それは、店の佇まいやそのあり方にも通じている。京都では、定期的に行われる朝市やマルシェなどの催しが多く、店舗を持たずに、商品だけを自宅で作って催しで販売するスタイルも一般的。珈琲やパン、スイーツ、雑貨など、店舗を持たないそのやり方で生業としている人もよく耳にする。

常松庵の中庭。バイパスの裏側にあるにもかかわらず静か。木々も四季折々に色づく。「ジブリ映画みたいな場所でしょ」と山田さん。取材途中にネコが目の前を通過。

山田さんは東京出身者。かつて東日本大震災の際、東京での暮らしに違和感を覚えたそう。東京に住めなくなった場合、自分たちが助けを求められる場所はどこにあるかと考えたこともあった。

僕が住んでいた東京の住まいには、周りとの関係性もありませんでした。災害時に不動産管理会社が動いてくれなくて、自分たちだけでは対応できなくなった時に、ご近所さんとの付き合いや顔の見える付き合いが必要だと強く感じましたね。今、大家さんと日々挨拶をしたりとか、貸す借りるだけでない関係性とやり取りが生まれているのは、心地いいなあと感じています。東京ではなかなか体験できなかったことです。

「僕が東京から京都に移住してから3年。大家さんはもう京都の母のような存在です(笑)」と山田さん。

只本屋の軸にあるのは、関係性だ。運営メンバー同士の交流も盛んで、サークルや部活動で例えると、現役とOBのような関係も築かれている。また、フリーペーパーというツールで、全国にも関係性を築いている。県外のフリーペーパー編集者の元を訪ねていけば、“いつも送っています”や“直接お会いできて良かった”といったコミュニケーションが生まれる。将来につながる関わり合いの素地が作られていると言える。

2017年12月に台湾で開催されたアートブックフェア「第二回Culture & Art Book Fair in Taipei」にも出店。フリーマガジンのワークショップなども開催した。海外との接点も増えている。(写真提供:只本屋)

社会人になって京都を離れることになった運営メンバーでも、在籍状態にしています。仕事や環境が変わっていく中でも、大人になっても続けていける活動や戻ってこれる場所として「只本屋」という枠組みを大切に残していきたいから。田舎に帰った時に農作業を手伝うような感覚で、「ちょっと時間ができたから帰ってきたよ」と、そんな風に言える場所になれたらいいなと思っています。関係性をお互いに保ちつづけていきたいですね。

取材・文:小倉千明


只本屋
住所:京都府京都市東山区慈法院庵町594-1
営業日:月末の土日のみオープン
http://tadahon-ya.com/