with
倉方俊輔(建築史家)
around
長堀橋~空堀~大阪城 〈大阪市〉

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街のパブリックを観察しながら、
2時間の制限時間で散歩をおこなう「散歩と観察」。
第3回のゲストは、
建築史家の倉方俊輔さんです。

肩書きはいかめしいかもしれませんが、
建築のありようを通して
さまざまな物事へといたる倉方さんの語りは、
建築DJとでも言えそうな、とても楽しいもの。

心斎橋からひと駅、長堀橋で待ち合わせて、
上町台地の坂を
少しずつ東へ上がっていきました。

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倉方俊輔
1971年生まれ。大阪市立大学大学院工学研究科准教授。著書に『大阪建築 みる・あるく・かたる』(柴崎友香さんと共著、京阪神エルマガジン社)、『東京建築 みる・あるく・かたる』(甲斐みのりさんと共著、京阪神エルマガジン社)、『ドコノモン』(日経BP社)、『吉阪隆正とル・コルビュジエ』(王国社)など。
ウェブサイト「建築土産ワールド」共同運営。http://ikenchiku.jp

#01

ハト問題/村野藤吾とハト/窓のない建物

―今日は、堺筋と長堀通の交差点で待ち合わせました。さて……。

倉方:もうはじまってるんですね(笑)。では、とりあえず横断歩道を渡りましょうか。目の前に、すごい建築がありますよ。職人技が光ってます。

―再開発で新しいビルが増えている長堀橋にあって、バブルな雰囲気をまとった見た目が貴重です。デザインの意味がわかりませんね。

でもよく見てください。ハトが入りこまないように、無数の針が取りつけられていますよ。ハトが止まりそうな、あらゆるところにすべて針が! すごいな。これは施工も大変だ。

―それだけハト対策が大変だっていう、街なかの事情が伺えます。

そうそう、ハト問題は馬鹿にできません。ニッチないい感じの窪みが建物にあると、ハトが好みますから。だから、街も徐々にツルツルになっていく。村野藤吾が設計した建築なんて、とても凸凹が多いからハトが好むんですよね。

―ハト好みの建築家、村野藤吾!

ガラスをたくさん使った丹下健三の建築はハトが寄りつかないとかね(笑)。…このあたりは、結構いい建物がありますね。普通の建物だけど、大量のタイルが貼られていたりして、60年代くらいの建物でしょうけど、斬新な感じ。そして、まず見たかったのはこちらのビル。ほとんど窓がないでしょう?

―言われてみれば、高層ビルなのに窓がほとんど見当たりません。

三井住友銀行の、おそらく情報センター的な機能を持った建物で、人間というよりは機械のために建てられているからなんです。普通のビルから窓をなくすだけで、こんなに印象が違うのかって驚きますよね。

―ビルというより、印象としては壁ですね。

そう。窓って公共性というか、窓があるだけで人の気配が伝わったりして、中の様子が見えなくても、街とコネクトしている感じがあるんだけど、その窓がないと建物は不気味な印象になる。この建物は、看板も一切ないし、それでも様式っぽくデザインされてもいるから、なかなか不思議な感じになってます。

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住友銅吹所跡/日本最古のビリヤード場/公開空地の居心地

―本当に看板も何もないビルですね。

倉方:このビルのある場所が、住友家の礎となった住友銅吹所だったところ。だから、その歴史を描いた案内板は設置されていますけど、もうすっかり色褪せて…。

―来てほしいけど、来てほしくない、そんな気持ちの表れでしょうか。

大名屋敷みたいですよね。江戸時代の街の多くを占めていた武家地は、中が伺い知れない場所で、そこには地名がない。訪ねてくる人がいませんから。昔からの町名があるところって、町人が住んでいた場所だけ。そういう意味で、この建物は、大名屋敷的ですね。

―なるほど、現代の大名屋敷ですね。建物の東側は整備されて、小さな公園みたいになっています。こちらにはちゃんとした石碑と案内板がありますね。

ほんとだ。その横には擬洋風のいい建物も。明治15年に建てられた、日本最古のビリヤード場です。都心部で擬洋風の建築って、なかなかのこってないから貴重ですよ。

―明治の建物がこんな場所にのこされているなんて、近くを歩いていてもなかなか気づきにくい。

史跡としても貴重なんですけどね。ここは公開空地になっているので、誰でも入れるような場所にしないといけないんだけど、情報センター系の建物って、決して誰もが来てほしい性格のものではないから、その綱引き状態が空間に表れていますね。

―公開空地というのは、どういう場所になりますか。

公共的な空き地を設ける分、建物の容積率が緩和されたりする仕組みで、わりと公開空地ってこういう雰囲気になりやすい。つまり、物理的には立ち入ることができるけど、なんとなく入っちゃいけない雰囲気が醸しだされて。

―ここでも防犯カメラ監視中の標識が何より目立っていますもんね。

よく見ると、案内看板もアクセス先は大阪歴史博物館になっています。この建物では何も答えられませんということですね。

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坂のある街/坂道とアーケード/うだつのあがる駐輪場

―長堀橋から東、問屋街で知られる松屋町の方へ向かいます。

倉方:大阪って何気なく歩いていても、いい橋のあるのもひとつの特徴です。この橋(末吉橋)も欄干のデザインだとか、アールデコっぽくていいですよ。だけど、川べりには降りられないよう封鎖されています。

―横堀川沿いは降りられない場所の方が多い気がします。

植栽もそれなりに進められて、手をかけて整備されているようなので、使われ方としてはもったいない。

―倉方さんは、松屋町に住んでいたことがあるそうですね。東京の方が選ぶ場所としては珍しいかも。

僕は、育ちが吉祥寺、東京の武蔵野なので、坂のある街が落ち着くんです。あとはアーケードのあること。この両方を満たす場所を探していたら、松屋町に行き着きました。特に大阪って平地だから、なかなか坂が少ないでしょ。

―坂って敬遠されるものだ思ってましたけど、そんな家の探し方もあるんですね。

東京人的な感覚かもしれません。坂がないと、なんとなく歩いている気がしない(笑)。

―実際、松屋町筋から東側は、ゆるやかな坂に沿って建物が立ち並んでいます。

実は、空堀商店街も坂とアーケードのコンビネーションがすごい。坂の勾配と、道のカーブに合わせて設計されているから、なかなか不思議な気分になる。

―ほんとですね、アーケードも道といっしょに高さが上がっていきながら、曲がっている。これはどうやって設計したんでしょう。

一体、三次元のどこが基準になっているのかわからない。まるで、岐阜にある荒川修作の養老天命反転地みたい。

―上を向いて歩いていると、そんな気分にもなります。

空堀のあたりは大阪大空襲でも焼け残ったエリアなので、町家と区画の多くが昔のまま。うだつの上がった町家がスーパー玉出の自転車置き場になってますね。スーパー玉出も大阪に来て、驚いたチェーン店。色に色、装飾に装飾といった足し算のデザインが強烈。

―黄色と赤の玉出カラーは、大阪のどの街で見ても鮮烈です。

さて、もうちょっと東へ上がっていくと、気になる公共トイレがあるんですよ。そちらへ向かいましょう。

文:竹内厚 写真:沖本明

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→ 倉方俊輔さんとの「さんかつ#02」
大阪のエアポケットのようなエリアで、知られざる街のツボに次々と遭遇します。


散歩と観察とは

デザイナー、アーティスト、建築家といった、独自のまなざしを持つ方々といっしょに町を歩きます。お題は、パブリックなモノやコト。公園、ベンチ、駅、図書館、路地、空き地、看板などなど、その観察眼はどこへ向けられるでしょうか。