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倉方俊輔(建築史家)
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千鳥橋~伝法〈大阪・此花〉

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なんば~西九条~尼崎をつなぐ阪神なんば線の開通もあって、住民が少しずつ増えている大阪市此花区。
地図を見ればわかるように、いくつかの川が区内を縦断して、島が集まっているようにも見えます。

建築史家の倉方俊輔さんにイラストレータのヤマサキタツヤさん、一般参加者を交えての此花まち歩き。千鳥橋駅前にある四貫島森巣橋筋商店街のPORTに集合しました。

さて、どこから歩き始めましょうかと迷っていたら、一般参加者の中に、此花に暮らす建築家の西山広志さんの姿を発見。界隈でいくつものリノベーションを手がけている西山さんは、ちょうどPORTのそばで進行中の物件があるとのこと。
「じゃあ、そちら見せてくださいよ!」って突然の無茶ぶりから、まずはそちらを目指すことになりました。

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倉方俊輔
1971年生まれ。大阪市立大学大学院工学研究科准教授。著書に『大阪建築 みる・あるく・かたる』(柴崎友香さんと共著、京阪神エルマガジン社)、『東京建築 みる・あるく・かたる』(甲斐みのりさんと共著、京阪神エルマガジン社)、『ドコノモン』(日経BP社)、『吉阪隆正とル・コルビュジエ』(王国社)など。ウェブサイト「建築土産ワールド」共同運営。http://ikenchiku.jp

*西山広志 奥平桂子とのユニット、NO ARCHITECTS(ノーアーキテクツ)として活躍。建築をベースに、設計やデザイン、まちづくりなどを手がける。

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鋭角に交わる商店街/アーケードの形/三角形の土地

―このあたりは4つの商店街が集まっています。

倉方:大阪の市中はだいたい道が碁盤の目になっていますから、鋭角に商店街が交わってる光景が新鮮ですよね。ほら、ここに立つと右目と左目でふたつの商店街が見えます。焦点が2つある遠近法のサンプルみたい(笑)。そして、分岐点を強調しているのは、安売りの自販機。

―50円から80円って激安!

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倉方:アーケードにも注目しましょうか。手前は三角屋根、隣は半円状のアーチ、そして奥は尖頭アーチになっています。

―尖頭アーチって何でしょう。

倉方:先が尖った形のアーチで、ヨーロッパで12-13世紀に広がったゴシック建築に特徴的な形なんですね。それまでのロマネスク建築では半円形が使われていて、こちらは古代ローマ建築で多用されたアーチを引き継いだものです。三角屋根のほうは、古代ギリシャ建築でも「ペディメント」と呼ばれて用いられた形。いわば西洋の建築史2500年の中にある3つの基本形態が、ここに集まっています。まさか大学の仕事を終えて散歩に来たのに、また講義することになるとは(笑)。

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―商店街のアーケードで尖頭アーチってよくある形ですか。

倉方:たまにありますけど、同じ商店街で屋根の形を変えているのは謎ですね。

西山:こちらの店の表看板には、2008年のイベントでアーティストが描いた壁画が残っています。地元の不動産屋の協力で、アーティストが街に入った「此花咲かせましょう」というイベントで作られたものです。

倉方:袖看板のところが、作品キャプションになってるんですね。絵と題字、淺井裕介・遠藤一郎と書いてあります。

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―その先で、商店街をぶつりと切断して阪神電車の高架が。高架をくぐった先にもほんの少しだけ商店街が続きます。

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西山:ここに今、手がけている物件があるんです。さっき塗装の段取りをつけてきたところなんですが…。

倉方:ちょっと拝見します。…そうか、三角形の土地だから、その形が内部にもダイナミックに表れていて、内部のあちこちに斜めの線が出ているんだ。商店街側から見るだけではわからない、この街だから起こり得る空間ですね。これは面白い!

西山:1階をアトリエや作業場にして、2階は長期滞在型のアパートメントになります。今後は、アーティストが滞在できるレジデンス施設としての活用も考えているそうです。

*「THE BLEND APARTMENTS」として8月オープン予定。こちらとあわせて、「THE BLEND」の企画物件が此花界隈で2カ所進められている。
http://blend.hostelosaka.com/apartments/

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倉方:商店街の空き店舗をどう活用していくか。この街ではその取り組みがかなり進んでますね。向かいにある商店の2階は、窓が斜めに走ってますよ。このあたりは敷地が正方形じゃないから、四角い部屋を確保しようと思ったら、どうしても斜めにならざるを得ない。

―碁盤の目じゃなく通っている道路の影響が、家の形にも表れている。

倉方:阪神電車も斜めに走ってるから、正面で見ているよりも実は近くを通っています。だから、電車の音の大きさと視覚との間にズレがある。一見なにげないようで五感を刺戟する、ここは不思議の商店街ですね。

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川を埋める/神社の玉垣/本殿と拝殿

―商店街を抜けたところに、四貫島温泉があります。

倉方:今はもう、銭湯に「温泉」と名付けられなくなりました。なので、こちらは古くから営業されている銭湯ですね。労働者の集まる街らしく、営業時間が長いのも特徴です。

―確かに夜中の1時までです。…そして、商店街の目の前にある森巣橋を渡ると伝法エリア、なんですけど、この橋がかかる正蓮寺川が現在、全面的に埋め立てられています。

西山:ついこないだまで川だったところが、埋め立てられて公園になるそうです。川は暗渠になって、阪神高速と平行して走ってます。

一般参加の方:阪神高速淀川左岸線ですね、神戸線につながってものすごく便利になりました。

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倉方:そうなんだ、かなりのビッグプロジェクトですね。それほど広い橋じゃないのに、市バスも通ってるんですね。しかも、結構、お客さんが乗ってるな。

―バスに乗ってる人も、なんでこの橋にこんなに人がいるんだって思ってるでしょうね。

倉方:でしょうね(笑)。橋を渡って、ここから伝法です。橋のたもとに神社がありますね、ちょっと見て行きましょうか。

―「鴉宮(からすのみや)」、鎮座800年とありますね。

倉方:800年というのは創建からの年数ですから、建物が800年たってるわけではないですけどね。…玉垣には鴻池の名前が何度も書かれてます。明治初め、現在のゼネコン準大手「鴻池組」を創業した鴻池忠治郎は、ここ伝法の出身。そんな縁で、こうして代々、地元の神社に寄進をしているのがわかります。

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―玉垣は目にしてもその文字まで読んでいませんでした。

倉方:神社やお寺は、境内全体が読み解かれるべき書物のようなもので、そのまちの過去の痕跡が記録されていることが多いのです。たとえ建物自体は新しかったとしても、立地自体に意味があったり、寄進された鳥居や碑などに、その土地の名士や実力者の名前が残されていたり。なので、私も初めて足を踏み入れたまちでは、まず立ち寄ってみます。たとえば、寄進者の苗字として拾っておいたのと同じ店の名前が、後でまちを歩いた際に発見できて、エリアの文脈が紐解けたりとか。近代を知るにも、神社や仏閣を訪ねるのはオススメです。

―なるほど。

倉方:こちらの神社も初めて訪れましたが、よく見ると拝殿の装飾が豪壮で、おもしろいですね。

―よく見ると、龍や不思議な生き物が彫られています。

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倉方:神社は、仏教建築の華麗な装飾が伝わってくる以前の形が基本とされているので、ここでも神がいる本殿には装飾はありません。それに対して、拝殿のほうは祭事を行ったり、拝んだりする人間のための覆い屋ですから、寺のように装飾して構わないわけです。

―本殿、拝殿というのは並んで建っていても、そもそも役割が違うと。

倉方:拝殿のお賽銭箱を置いてあるところが、舟の舳先を模した形になっているのもスゴい。海に漕ぎ出す守り神としての地域性を、形から実感できます。散歩と観察の醍醐味ですね(笑)。

―ちなみに、「登録有形文化財」ってよく見かける言葉ですけど。

倉方:ここで記事を書くときの忠告を一つ(笑)。旅行ガイドなどで「登録有形文化財に指定された」と記されていることがたまにあって、国宝や重要文化財は「指定された」でいいのですが、登録有形文化財は「登録された」が正解です。細かいことのようですが、動詞の違いに意味があります。なぜかというと、それまでのように国や自治体から命じるのではなく、持ち主が申請し、基準を満たしていれば国の登録原簿に登録するという逆方向の流れになっているので。

―国のえらい人が決めているように思いますけど、自薦の仕組みなんですね。

倉方:そう、今から約20年前に作られた、日本の文化財行政の中では新たな制度です。これによって、地域性を持っていたり、地元に親しまれていたりする特に近現代の建物に、より多くの方々の目が向くようになりました。

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*鴉宮●大阪市此花区伝法2-10-18 本殿、拝殿、中門、透かし塀が国登録有形文化財として登録。他にも、大阪府の「大阪ミュージアム構想」、大阪市此花区の「都市景観資源」にも登録され、界隈の歴史を守り伝えている。

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文:竹内厚 写真:平野愛 現場スケッチ:ヤマサキタツヤ

→倉方俊輔さんとの「さんかつ#02」は7月30日更新予定
一般参加者も交えての「散歩と観察」は、かつて大阪の玄関口だった街、伝法エリアへ!
→当日の様子は、ヤマサキさんによるイラストレポートもご覧ください。


散歩と観察とは

デザイナー、アーティスト、建築家といった、独自のまなざしを持つ方々といっしょに町を歩きます。お題は、パブリックなモノやコト。公園、ベンチ、駅、図書館、路地、空き地、看板などなど、その観察眼はどこへ向けられるでしょうか。