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武田重昭(緑地計画学)
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金剛~富田林〈大阪・富田林〉

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南海電鉄金剛駅の駅前に降り立つと、いきなり目の前に広がる団地群。
そう、大阪の千里や香里と並ぶ大規模なニュータウン、金剛団地です。

町を歩きながらパブリックスペースについて、マジメに考えてみようという「散歩と観察」企画。
今回は、この巨大なニュータウンを武田重昭さんと歩きます。
武田さんは、大学院を修了後、UR都市機構の設計部造園課に勤められ、団地の屋外空間の計画、設計に携わっていましたが、現在は大学の研究職に戻られています。

富田林の町を歩くのはほぼ初めてという武田さん、そして、待ち合わせた日はこの冬一番という大寒波が到来。決して散歩日和とは言えませんが、2時間の制限時間の中、興味のおもむくままに富田林の町を歩きまわってきましたよ。
なお、UR都市機構の住宅経営部保全企画チームに所属する職員、三上拓さんも案内役として同行いただきました。

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武田重昭
1975年生まれ。大阪府立大学大学院修了後、2001年よりUR都市機構にて屋外空間の計画、設計に携わる。その後、2009年より兵庫県立人と自然の博物館、2013年より大阪府立大学大学院 緑地計画学研究室助教。共編著書に『都市を変える水辺アクション:実践ガイド』(学芸出版社)。

#01

市境/団地あるある/屋外設計/人研ぎすべり台/遊具の安全距離

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―駅前に広がる団地ビューがいきなりダイナミックですね。

武田:そうなんですよ、これがクライマックスかもしれませんよ(笑)。だけど、金剛駅は富田林市じゃないんですね、駅前に狭山市の案内板が立ってます。

―駅前広場だけが狭山市で、その向こうはもう富田林市の標識が見えています。

武田:市の境目ってやっぱり開発がしづらくて、わりと開発の余地がのこっているので、そこを公団(現UR)が買い取って大規模な団地にしたというパターンは少なくないですね。どちらの市からしても辺境の地になりますから。

―市境って、住んでるひとにはあまり関係ないことですけど、町のあり様には影響がありそうですね。

武田:僕が東京のURで働いていたときには、3つの市をまたいだ団地の再生をしていたこともありました。

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武田:…駅前からまっすぐ目抜き通りが続いていて、これは気持ちのいい道ですね。

―左右に見えている団地が100番台、200番台の号棟ですけど、そんなにあるんですね。

三上:金剛は、URの賃貸だけで180棟以上はあります。

武田:僕、団地育ちなんですけど、子どもの頃、親が家の扉に猫のシールを貼ってくれてました。僕が間違って知らない家に入って、泣きながら帰ってきたことがあったらしくて。

―家を間違ってしまうのは”団地あるある”ですね。その対応策に猫のシールというのがお母さん、やさしい。…では、金剛団地の敷地内に入ってみましょうか。

武田:駐車場がありますね。ここはフラットに全面的に駐車場にした方が効率がいいけど、車2台分を緑化スペースにしています。効率性よりも、景観や居住者の生活を考えての設計なんですね。

―なるほど、そういう意図のあるスペースなんですね。これまでも何気なく見過ごしてました。ちなみに、この緑化スペースにどうして松が植わってるんでしょう。

三上:冬にすべて葉がなくなるとさびしいので、常緑樹を植えるということはありますね。

武田:この松がそうではないと思いますけど、既存樹木といって、もともとそこにあった自然をいかに生かせるかというのも団地の屋外設計の大事な要素のひとつです。

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―公園が出てきました。古い団地でよく見かける、遊び方の難しそうな公園です。

武田:このすべり台は人研ぎ(じんとぎ)で、職人さんがこの場で仕上げてつくってるんです。最近は人研ぎのできる職人さんも減っているので、このすべり台は値打ちですよ。

*人研ぎ…人造大理石研ぎ出しのこと。この場合はコンクリートを研ぎ出している。

―昔ながらの公園ではまだよく見かけるタイプですけど、そうか、もう貴重な存在になってきているんですね。

武田:さらに今は遊具の安全基準がめちゃ厳しくて、メーカー品じゃないと置けなかったり、遊具と遊具の安全距離も定められているので、ここにあるような複合遊具はもうとてもハードルが高くてできない。向こうに見える、鉄棒とベンチの位置関係も、今の基準でいえばきっとアウトですね。こっちのウサギは遊具じゃないと言い張れば大丈夫かもしれないけど。

―普通の距離感に見えますけどダメですか…。

三上:今は、メーカーのカタログから選んで置いてるだけの公園が多いですね。オリジナルで遊具をつくると高いですし。やっていきたいことではあるんですけど。

武田:とにかく、こういう昔からある公園は大事にメンテナンスして、使い続けてほしいですね。

もとの地形/トウネズミモチ/ピクニックの権利/ポイント住棟

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―駅前のふれあい大通りがまっすぐ登ってきて、また今度は下りになってます。

武田:もとの地形を頼りにして、団地も道路も設計されていますね。この大通りも駅前から登ってくる道は中央分離帯がありましたけど、下りになるとケヤキ並木がアーケード状になっている。その変わり目、結節点は何かというと、もとの地形なんです。

ーここがちょうど丘の上になってるということがわかりますね。おっ、街路樹に何か実がなってますけど、食べられますか。

三上:OURS.の企画で、団地に植わってるヤマモモを食べようとしたことがあるんですけど…。
http://ours-magazine.jp/gourmetd/wild-gourmetd/

武田:ヤマモモはまあ、食べられますよね。だけど、これはトウネズミモチなので食べないほうがいい。昔の団地にはかなり植わっていて、実をぷちゅっと飛ばしてよく遊んでました。だけど今は、侵略的外来種に指定されたので…。

―ということはもう植えられない。

武田:ですね。ネズミモチって日本の在来種がありますけど、それより安かったので、トウネズミモチがたくさん植えられてきたんです。

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―どっちへ進みましょうか。

武田:では、金剛中央公園を抜けていきましょうか。また急な下り坂だ。大きなすり鉢型の公園になっています。

三上:もとの地形が急な谷だったので、住まわしづらくて公園にしたのかと思います。

武田:あそこにヤドリギがありますね。花壇に植わっているパンジーの密度もなかなかすごい。

―なかなか不思議な佇まいの公園…。武田さんは、兵庫県立人と自然の博物館でも働かれていたそうですね。あそこも公園と博物館がセットである感じで。

武田:そうですね。人と自然の博物館にいらした中瀬(勲)先生が大学の研究室の先輩で、中瀬先生にお会いして僕自身、ランドスケープの分野に目覚めたという縁があって、博物館に入りました。博物館では生涯学習の講座として、緑のことを教えたりもしてましたよ。

―緑の講座って具体的にはどんなことなんでしょう。

武田:いろいろやってましたけど、たとえば「ピクニック」の講座とか。博物館の前にある芝生広場でピクニックをやるだけの講座(笑)。

―ピクニックって教えられるものなんですか。

武田:僕も参加していた「東京ピクニッククラブ」*という団体があって、彼らはピクニックの歴史を調べあげたり、いろんな活動をやってるんですよ。ピクニックって、公園の誕生とも近しいところがあって、王侯貴族に対して、市民が自由な活動の場を都市に設けるというのがピクニックのはじまりでもあるんです。だから、東京ピクニッククラブでは「ピクニックライト」、つまり、「ピクニック権」を主張していました。

―誰でもピクニックをやる権利はあるはずだと。

武田:そう、そしてどんな場所ででも。だから、駅前の中央分離帯にラグを敷いてピクニックをしたりなんて活動もやってました。人と自然の博物館ではそこまで過激なことはやってませんけど。

―ピクニックのイメージが変わりました(笑)。…獣道を進んで金剛中央公園を抜けると、また団地が見えてきましたよ。

武田:これまで見てきた団地と形が変わりましたね。「ポイント住棟」とか呼ばれますけど、三面開口なので室内がとても明るくて、僕も住んでたことがあります。このタイプが最も居住性能はいいんじゃないかと思いますけど、難点は壁がないこと。本棚とかも窓の前に置かざるをえない。

―団地に特徴的な形でしょうか。

武田:そうですね。長い長方形型の建物にした方が効率がいいですから、なかなか建てられないですね。…さて、もうグーグルマップは見ないで歩きましょうか。散歩ですもんね。

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*東京ピクニッククラブ
http://www.picnicclub.org/

文:竹内厚 写真:沖本明 

→武田重昭さんとの「さんかつ#02」
巨大なニュータウンの中、団地群から住宅街へ。そこで目にしたのは…。


散歩と観察とは

デザイナー、アーティスト、建築家といった、独自のまなざしを持つ方々といっしょに町を歩きます。お題は、パブリックなモノやコト。公園、ベンチ、駅、図書館、路地、空き地、看板などなど、その観察眼はどこへ向けられるでしょうか。