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梅林秀行(京都高低差崖会)

01 歩いて目指せ、洛西ニュータウンへ

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散歩をしながら街を観察してみる“さんかつ”企画、
今回は、『ブラタモリ』などのテレビ番組出演でもおなじみの梅林秀行さんの登場です。
街歩きを何度も重ねたうえに、最新の知見をミックスして、京都の地形と歴史を紐解いた著作『京都の凸凹を歩く』も大ヒット。そんな梅林さんに散歩の打診をしたところ、戻ってきたのが「洛西ニュータウンに行ってみたい」との返事でした。とても興味を持ちながらも、これまで足を踏み入れる機会がなかったそう。

そこで今回は、UR都市機構の京都・奈良エリアを管轄する土井睦浩さんも同行して、随時お話もいただきました。
なお、いつもは2時間の制限時間を設けて散歩する本企画ですが、先にお伝えしておきますと、今回は3時間コース。その分、発見も盛りだくさんです。では、出発しましょう~。

梅林秀行
1973年生まれ。京都高低差崖会の崖長として、著書『京都の凸凹を歩く』『京都の凸凹を歩く2』(青幻舎)をはじめ、テレビ番組『ブラタモリ』や街歩きツアー「まいまい京都」などでも活躍。銭湯、くるみパン好き。

駅前から/断層崖/用水路/河岸段丘/起伏のある土地

―洛西ニュータウン、行かれたことないんですよね。

梅林:はじめてです。『京都の凸凹を歩く』にも入れたい場所なんですけどね。今日は、見てみたいと思ってる場所がいくつかありまして、まずは…。

―もう見てきたかのよう!事前にしっかり予習されるんですね。

梅林:いやいや。ぶっつけで歩いてもいいんだけど、ニュータウンというのは論理でつくられた街だから、まずはその論理を踏まえた上で、根拠を持って歩いてみたいなと思ってるんです。

―ニュータウンという街の性格上、調べ甲斐もあるんだと。

梅林:そうです。人が住みづらかった場所に戦後新しくつくられた人工都市ですから、理想を形にしようとしているんですね。ただ一方で、その後、住民の人たちが住みこなしてきた現実もあるはずなので。その両方の空気を受け止められたらなと思います。

―梅林さんのiPadには地形図、古地図、論文まで、資料もぎっしり。

梅林:洛西ニュータウンのマスタープランをつくられた上田先生の講演録も入れてきました。

土井:当時、京都大学におられた西山夘三さんと上田篤さんが洛西ニュータウンのコンセプトや全体設計をなされたんですね。上田さんは今は京都精華大学の名誉教授です。

―はい。といっても、出発点は阪急洛西口駅。洛西ニュータウンまではまだかなり距離があります。

土井:ニュータウンよりかなり後、2003年に開業した新しい駅ですね。私はいつもバスに乗ってしまうので、ニュータウンまで歩いていくのははじめてです。

―洛西口駅から洛西ニュータウンまで歩くという人は、ほとんどいないでしょうね。ニュータウンへと一直線に伸びる府道から出発です。

梅林:おっ、早くも向こうに断層崖が見えてきましたよ。京都盆地の西側をつくっている樫原断層。西山断層帯の一部ですね。

―西山連峰の手前に見える、大きな丘とも小さな山とも見える緑の帯ですね。断層ってあんなにはっきりと見えるんだ。

梅林:断層崖ですから、あの断層の上は山じゃなくて平地。ほんとに地面がずれて、そのままズレた形が表れているんです。…おっ、用水路だ。なるほど、桂川と断層崖の間の平地をうるおす水路ですね。嵐山渡月橋のあたりで取水した水が何度も枝分かれして、このあたりまで流れているんですね。

―この用水路から嵐山まで想像できませんけど、上流に遡っていけばそうなんですね。

梅林:ちゃんとここに水門を落とす場所があるから、水量調節もできるようになってますね。この水路の流れる先に田んぼが見えます。ちょっと行ってみましょう。

―府道を離れてやや南側へ、

梅林:おおっ!これはいい!ナイスランドスケープですよ。

土井:確かに、気持ちいい場所です。

―この土地の地形がよくわかる場所ですね。

梅林:ここからだと樫原断層の断層崖がはっきりと見えますね。山というより段差。このあたりは古墳時代の後期頃から開発されていて、中世になると東寺の百合文書なんかにも出てくる場所です。ただ、昔は桂川から引っ張ってきた用水が氾濫するので、決して住みやすい土地でもなかった。じゃあ、人はどこに住むのかといえば、もう少し上の方。断層崖のヘリにへばりつくように住んでいたんです。

―今も洛西口駅周辺は田んぼが中心で、人家はもう少し上がったところに密集しています。

梅林:人間が住める場所と住めない場所って、前近代までははっきりと分かれていたんです。自然に畏敬の念を持つとかではなくて、ただただ水が氾濫するような場所は住みづらい。このままの道を上がっていきましょう。

―駅からニュータウンへ続く府道からすると、こっちは裏道のようですが。

梅林:明治45年の地図を見てみると…うん、明治の地図にも記された道なので、昔の主要道はこっちですよ。きっと、田んぼを耕したり、川で魚を採ったりした人がこの道で登りおりして、行き来したんじゃないかな。

―曲がりくねったゆるい登り坂。こうやって実際に歩いていくと、当時の様子が自然と想像されますね。

梅林:ほら、ここにも用水路。河岸段丘で生まれた高低差のヘリに沿ってつくられてますね。こうした地形の境界には、水を通しやすいので用水路が多いんです。

―地形と土地の使われ方が一致している。

梅林:そう、この用水路がそのまま等高線ですよ。

土井:阪急電車からいつも気持ちのいい起伏だなって見てたんです。高低差があると景色がキレイに見えますよね。

梅林:洛西口から東向日、西向日らへんまで、断層崖と平行して阪急京都線が通されました。だから、駅からちょっと歩くと斜面になるんですね。

 

物集女城/等高線に沿って/地蔵と石/S字の道

―バス停「物集女(もずめ)」が見えてきました。

梅林:いいね、ここも。地形が段々になってますね。1段目の河岸段丘を上がった平地があり、ここでまた、もう1段上がる。そうすると地下水位がそれだけ低くなるので、田んぼには適さず今度は畑になるわけです。

―なるほど、地下水まで遠くなるから。

梅林:そう。田んぼ、畑、そして家をたてる土地になるという順。

―実際にそのように土地が使われています。ちゃんと理由があるんだ!

梅林:ここから下を眺めるのもいいですね。しかし、情報量が多いな。

―一般的にはのどかな風景で終わってしまいますけど、情報量が多いですか。

梅林:この畑も等高線にそってつくられてますよ。

―畑の畝がカーブしてる、これも地形が理由。

梅林:この河岸段丘は斜めに土地が下がってるから。その土地にあわせてカーブしていますね。

土井:確かにそうなってますね。道路の方もゆるやかに曲がっている。

梅林:ほ場整備される前は、全国的に等高線に沿って田んぼや畑がつくられてきたんですよ。

―ほ場整備。田畑を使いやすい形に整形していく全国的な事業ですね。

梅林:そう。で、バス停の上には竹やぶが見えるでしょ。あれがきっと物集女城跡。このあたりの御館さま的な人、在地領主の住まいですね。言ってみれば、「風の谷のナウシカ」の実家みたいなところですよ。
このあたり、桂川右岸の河岸段丘の上くらいに、中世から小さな領主がずっと城を築いてたんです。西岡衆って呼ばれてた集団で、戦国武将も手を焼いたというね。しかし、物集女城跡に近づく道がないね…。

―見えてはいるけど、周りに人家ができて近づけない。もう少し登ってみましょうか。…お地蔵さんのような塚がありますね。

梅林:これは、たぶん河川のあたりに埋まっていた古い墓を掘り出してきて、ここに集めたんですよ。江戸時代くらいから川の周りの新田開発や市街地開発が進んで、その地中から個人の墓が掘り出されるんですね。

―墓石のような、見た目は石ですね。

梅林:昨年、『京都地蔵盆の歴史』という本が出て話題になりましたけど、京都って地蔵盆がどうして盛んなのか疑問が浮かびますよね。あれは、もともと個人の墓だった石が掘り出されてきて、町内の仏さんになっちゃったという話なんです。それと同じで、掘り出された石が地域コミュニティの信仰対象になっていく。そうすると、周囲の人がアノニマスな仏を奉納しはじめるんですね。それが楽しい。

―家にある仏らしきものも持ってきちゃう。

梅林:西洋人形を見かけたこともあります。

―では、物集女城跡らしき方向へ進んでみましょう。

梅林:ここから行けるかな。人家があって、お寺があって、領主の館があって。きっと昔から変わらない景色ですね。

土井:すごいS字カーブ、びっくりしますね。

梅林:中世の痕跡かな。おそらくこれは館の周りを取り囲んでいた堀の跡だと思います。もしかしたら、今もご子孫の方が住まれてるのかもしれませんね。

―ちょっと物集女城跡の前までは近づけなさそうです。

梅林:仕方ない、今回はあきらめて先へ進みましょう。

土井:やや時代を経た建物、「京都大学農学部 植物生殖質研究室」とある。こんなところに京大の研究室があるんだ。

―畑も備わっています。

梅林:ニュータウンの面白いところって、必ず向かっていく道のりには旧市街がある。日本住宅公団が1955年で、もう土地がない都心ではなく、郊外に大規模開発をして良好な住まいをつくるという「新住宅市街地開発法」が東京オリンピックの前年だから、1963年かな。

土井:そうです、新住法と呼ばれる法律ですね。

梅林:その結果、オールドタウンの向こうに、また別の宇宙としてニュータウンが立ち上がってくる。

―ニュータウンを歩いて目指せば、その道中は旧市街。これもひとつの典型なんですね。

梅林さんとの「さんかつ02 ニュータウンの原風景」
洛西口駅からまだ徒歩15分圏内をうろうろしております。はたして洛西ニュータウンにはいつ到着できるのか!? なお、梅林さんのiPadには、立体的に地形を把握できる「カシミール3D」地図、さまざまな時代の古地図など、数々の資料が詰まっていて、折にふれて、その地図を確認しながら進んでいきます。結果、観察がとても立体的になるというわけ。さすが街歩きの達人!

取材・文:竹内厚 写真:原祥子


散歩と観察とは

デザイナー、アーティスト、建築家といった、独自のまなざしを持つ方々といっしょに町を歩きます。お題は、パブリックなモノやコト。公園、ベンチ、駅、図書館、路地、空き地、看板などなど、その観察眼はどこへ向けられるでしょうか。