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梅田哲也(アーティスト)、雨宮庸介(アーティスト)
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木津川~大正~尻無川〈大阪市〉

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今回の「散歩と観察」は、南海電鉄汐見橋線「木津川駅」に集合しました。大阪の人でもあまり使わない超ローカル線。汐見橋駅から岸里玉出駅までの全6駅で構成されるこの鉄道は、今でこそ寂しさ極まる感じですが、貨物輸送のために駅構内の線路が4車線広々とられているなど、造船業が盛んな50〜60年前の活気を思い起こさせるところものこっています。

駅の周辺は、廃材やクレーン、その他もろもろ、むき出しの工業地帯。まちなかではありつけない驚きと発見を予感させられます。梅田哲也さん、雨宮庸介さんは12月頭に発表するナイトクルーズ作品『7つの船』の制作に向けて、自転車でこのあたりも下見しているそう。そんな2人といっしょに木津川と尻無川を目指して、2時間の制限時間で歩きはじめました。

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梅田哲也
予測不能な状況や自然現象をも含めたインスタレーションを制作するほか、劇場の機能にフォーカスした舞台作品などを手がけている。近年の展覧会では『Double Vision: Contemporary Art from Japan』モスクワ市近代美術館/ハイファ美術館、個展に『See, Look at Observed what Watching is』ポートランド(2016年)など。2016年12月1日より大阪の川を舞台としたナイトクルーズ作品『7つの船』を発表。
http://siranami.com
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雨宮庸介
1975年茨城県生まれ。Sandberg Institute(アムステルダム)Fine Art Course修士課程修了。彫刻、ドローイング、ビデオインスタレーション、パフォーマンスなどを媒体に国内外で作品を制作・発表。近年の個展は『On Alongsideness」Galerie Fons Welters』アムステルダム(2013年)。2014-3314年のプロジェクト「1300年持ち歩かれた、なんでもない石」を開始。ほかとともにナイトクルーズ作品『7つの船』発表。
http://www.ishimochi.com

『7つの船』
夜の木津川で船に乗って作品を鑑賞する体感型アートイベント。梅田哲也、雨宮庸介、さわひらき、Hyslom、松井美耶子、辰巳量平らが参加。
http://7-ships.com/
http://7-ships.tumblr.com/

 

#01

木津川駅/ゴミを捨てるな/方向音痴/アーチ型の水門

―木津川駅って降りたことあります?

梅田:通ることはありますけど、駅を使ったことはないですね。友だちの家がすぐそこなんですよ。​

―雨宮さんは、普段はベルリン在住なんですよね。

雨宮:大阪は、梅田さんと一緒に制作した「NAMURA ART MEETING ’04-’34」の作品で何度か来ています。とはいえ、土地勘はまったくないですね。もともと方向音痴ですし。

―木津川駅は大阪の人でもなかなか来ない場所ですよ。駅前から驚くような景色、広大な空き地が広がっています。

梅田:これ駅前の一等地ですよ。ここに何をつくったら一番正解かな。僕は住めるけどね。

―生活の気配が皆無の場所ですけど…。

雨宮:あ、トイレマーク。

―「関係者以外立ち入り禁止」が消えて、もはやトイレマークに……。めちゃくちゃ広いトイレですね。不法投棄のごみもあふれてます。

梅田:「ゴミを捨てるな!!」って。やっぱり否定しちゃだめですよ。ゴミを捨てるとき、こういうことをしたほうがいいよって書くと、みんな考えてくれる。

―「ゴミ袋ここにあります」とか。雨宮さんはベルリンでも散歩するんですか?

雨宮:すごい散歩しますね。ただ、散歩しながら、家の近くのこの木においしい実がなるとか、そういう誰ともシェアできない情報ばかり集めていて。

梅田:雨宮さんはわりと大事なテレビ電話の打ち合わせを打診すると、たまに「ちょっと、走りに行くんで」「散歩に出て、しばらくちょっと帰ってこないですけど」とか言って、いなくなるんです。

雨宮:ひとりで部屋にこもっていると、社会的なプライオリティがおかしくなってしまって。

梅田:たとえば、大きい公園でみんなが同じ方向に走っているじゃないですか。あれ、ほとんどサウナと一緒でしょ? 興味がない人から見たら、意味がわからないですよね。サウナって、あれが劇場だと思うとおかしい。前に何もないのにみんな同じ方向をじぃーっと見ている。何もないところをじぃーっと見る、仏教的劇場。

雨宮:たしかにね。僕の場合は、住んでいる所の周りに知らない景色があるのが気に入らないタイプなので、とにかく網の目状にくまなく道を走っているだけです。

―地図を埋めていくみたいに。

梅田:走っていたらそんなことできますかね?

雨宮:できますよ。単純に行ったことのない方向を優先して行くだけなので。1ヶ月もすればほとんどの道を通ったことになるんです。

―でも方向音痴なんでしょう?

雨宮:だからこそです。どんな曲がり角も全部知っていたら、方向感覚がなくても大丈夫じゃないですか。

―そんな方向音痴の解消法があるとは。

梅田:方向音痴って子どもの頃からですか? 僕、成長にともなって方向音痴になっている気がするんですよね。あれはたぶん、地図を俯瞰でイメージできるようになると、逆にそのイメージと照合しないと方向がわからなくなる。子どもの頃は、もっと直感的にわかってた気がします。

―野生が減っているのかもしれませんね。あ、木津川水門が見えてきましたよ。この水門、常に上がった状態でしたっけ?

梅田:この水門は、アーチがそのまま水の中にザブーンって下りてくるタイプ。アーチ型の水門は、もう大阪にしかないらしいですよ。

―なるほど。水門に付随した小部屋、ああいうところに住みたくないですか?

梅田:いいですね。仕事も、たまに水門をガコンと下ろすだけ。

雨宮:僕、前に水門を上げ下げするバイトをしていたことがありますよ。僕が担当していた水門は下げるのに40分、上げるのに40分。その間、ワイヤーから古いグリスを手に拭いとって、次は新しいグリスつけて……1日がすぐ終わるんですよ。

―意外に忙しい(笑)。

雨宮:水門って急に閉まると、ピンチになったと思ってか、魚がいっぱい遡上してくるんです。僕の感覚では下流に逃げた方がいい気がするんですけど、なまずや鯉が上がってくる。それをよく拾っていましたね。

―食べるんですか?

雨宮:地元のおじさんにあげると、自宅の池で泥を吐かせて、あとでもらえるんです。

 

7つの船/純粋シャッター/大阪市のマーク

梅田:雨宮さんのアルバイト、他にもいい話がありましたよね。

雨宮:中学生のとき、卒業旅行にどうしても行きたくて、土建屋でバイトさせてもらってました。月のおこづかいが500円だったので、時給500円が超うれしくて。建築の基礎から工事に入るバイトで、とにかくガラを拾ってこいと言われて、地下2階の瓦礫で埋まったスペースでガラ拾いをしていました。その間、地上でも作業しているので入り口が閉まっていて、ひとまずハシゴで2階分くらいの高さまで登って、ハシゴにつかまりながら上の作業が終わるまで待っていました。

―地獄みたいなバイトじゃないですか。

雨宮:あれは、事故で死んでいたら、そのままセメントを流されて埋められていたと思う(笑)。

梅田:その、ハシゴに捕まって何かを持っているような場面、『7つの船』でもありますよね。

―あまりわかってないんですが、『7つの船』はどういう作品なんですか?

雨宮:船で夜の川や水路を巡りながら、こういった川沿いのむきだしの景色と出会ったり、パフォーマンスを体験したり、普段見ていないまちの裏側を見る移動型の作品です。この木津川の水門あたりも船で通りますよ。

梅田:あと、市街地から海の方へ向かうのと、その逆を行く上り下りの2コースがあって、僕らはできるだけ一生懸命、その両方で同じようなパフォーマンスをする努力をするんだけど、環境の順番のせいでそうならないことがほとんどだし、視線が逆転したら体験としてまったく違ったものになる。それが見どころじゃないかな。

―なるほど。…木津川の渡船場に到着しましたよ。

雨宮:歩いてきた道のりとは全然違って、この渡船場でパッと視界が開けて良い感じですね。木津川水門もばっちり見えるし。

―工場とトラックばかりの道中で、人のスケールでは見渡せない町並みでしたもんね。

梅田:あ、あのシャッターいいね。どこにもはまってないから、横から入ろうと思えば入れる。純粋シャッター。

雨宮:概念としてのシャッターですね。

梅田:木津川水門のとなりの三軒家水門とか、アーチ型ではない水門は、あのシャッターがひっくり返っているような状態なんですよ。アーチ型とローラー型ですね。

―あれって災害時に動かすんですよね。

雨宮:水門は、すべて徹底的に管理されていて、本当に緊急のときにどこを氾濫させるか決定する人たちがいるんですよ。

―渡船が来ました。船体には大阪市のマーク。

雨宮:僕が唯一繰り返し読んでいる『ベルセルク』という漫画があって、13巻までしか読んでないんですけどね。その中で、あれと似た「贄の紋章」と呼ばれるマークがあって、それが体のどこかにあると化け物に食い殺されてしまうんですよ。

―あの大阪市のマークですか。

雨宮:あの紋章から血が出てくると、近くに悪いやつが現れるという設定です。

梅田:まったく同じ?

雨宮:本当は違うけど、僕の印象ではとても似てる。

―大阪市のマークは「みおつくし」って、もとは水路を示す標識なんですけどね。

梅田:あのマークを考えたのが大阪の人かどうかわからないけれど、よく大阪の人があれで我慢したなと思う。すごくかっこいいと思うけれど、なかなか大阪はあそこで我慢できないよ。

―たしかに大阪にしては奥ゆかしいかも。

梅田:横にちょんちょんって、目とか書くでしょ(笑)。笑顔っぽくやってしまう。

―残念なゆるキャラ化ですね(笑)。そろそろ渡船が出ますよ。けっこう人が乗りますね。

梅田:そういえば、なんで船の名前は「丸」がつくんだろう。全然丸くないのにね。

文:永江大 写真:沖本明 編集:竹内厚

→梅田哲也さん、雨宮庸介さんとの「さんかつ#02」
次回はついに木津川を越えて大正区に上陸。木津川からも見えていた巨大団地、千島団地もちらと訪問します。


散歩と観察とは

デザイナー、アーティスト、建築家といった、独自のまなざしを持つ方々といっしょに町を歩きます。お題は、パブリックなモノやコト。公園、ベンチ、駅、図書館、路地、空き地、看板などなど、その観察眼はどこへ向けられるでしょうか。