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梅田哲也(アーティスト)、雨宮庸介(アーティスト)
around
木津川~大正~尻無川〈大阪市〉

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梅田哲也さん、雨宮庸介さんと木津川沿いの工業地帯を歩き、渡船で西成から大正へと移動した前回。今回は歩きながら、出会ったものや状況、言葉を手がかりにぐいぐい話題を飛ばしつつ、千島団地へと向かいます。

 

#02

水門のイラスト/発注者と受注者の間にいる人/心ない方/打ちっ放し

―さて、大正区に上陸しました。とりあえず、向こうに見えている大きな団地(千島団地)をめざして、西へ進んでみましょうか。

梅田:気になる絵看板があるんですよ。台風が来ると三軒家水門はこういう役目をしていますよっていう絵なんですが、もう誰視点なのかよくわからない。「水門は頑張っています」と言いたいはずなのに、どこに感情移入していいのか……。

雨宮:受け取り方がむずかしいね。

梅田:テキストを読むと「この施設」=水門が主語のはずなんだけど、絵では象みたいな台風が一番頑張っている。

雨宮:僕、こういう絵を描くアルバイトをしたことあるんですよ。

―いろんなバイトしていますね。

雨宮:そのバイトのボスが、絵は下手で、性格もひどいし、金に汚い人だったんですよ。愛すべき人ではありましたが。しかも、クライアントからきた依頼を、どこが中心になってるのか迷うような、こういう絵で返すんですよ。

梅田:これは、絵を見るかぎり台風が中心になってますよ。

雨宮:発注した人は、水門を主人公にして、ここに台風の絵を描いてとか、意外ときちんと要望を伝えていると思うんだけど、そのボスみたいな人がいるせいでねじ曲がってしまう……。

―描いた人も発注元も悪くない、きっと絵を受注した業者のボスが悪いに違いないと。すべて想像ですね(笑)。

梅田:じゃあバイト経験豊富な雨宮さんに聞きたいけど、この絵の水門の門の間だけ水の塗料が剥げていないって、どういうことですか?

雨宮:たぶん少し違う色を同じ色だと思って塗ったんじゃないですかね。

梅田:最後に塗ったのかな。いや、最初に水門が閉まった状態で描いてみたら、水門の絵に見えなかったから、開いた状態に描き直したんだ。

雨宮:誰がどの時点でOK出しているのか、わからないですよね。

―絵描きバイトの苦労が絵に表れていますね。想像ですけど。…さて、公園が見えてきました。子どもたちが遊んでいて賑やかです。

梅田:この公園の金網の柵に破られた跡があるんですよ。

―(キックベースをしている子どもたちに)ちょっとごめんね。通りますよ。ああ、ここですね。看板があります。

雨宮:「心無い方」って、人の口から聞いたことはあるけど、こうやって文字で見たことはなかったな。

梅田:でも、心無いかどうかはわからないですよ。すごい心があった人かもしれない。誰かが溺れているのを見て「あぶない!」って。

―よほど金網の向こう側に行きたい理由があったんでしょうね。…それにしても、このあたりは閑静な住宅地で、渡船前の木津川付近とはまるで場所の用途が違います。

梅田:昨日ちょうど、雨宮さんとゴルフの話をしていたんですよ。ゴルフって、いい靴履いたおじさんが外車で乗りつけて、高そうなゴルフバック出して…みたいなのを見ると、自分とは縁遠い気がするんですけど、雨宮さんが芝生の上をあの遅い車(キャリーカート)でプーって走っていて、僕がボールを探している状況を想像したら、めちゃくちゃ楽しそうだなって(笑)。できるかもと思いました。

 

トイレを借りる/上海の路上商売/団地行事の提案/トンボの目

雨宮:そういえばそこの打ちっ放しにトイレを借りにいったら、すごく気持ち良く貸してくれました。

梅田:トイレって、普通そうだよ。トイレを貸さないのは人としておかしい。

雨宮:どう言ったら貸してくれるんでしょうね、「やばそうだから貸してください」だとダメじゃないですか。

―緊急性をうまく伝えるのって難しいですね。ジェスチャーも入れたりとか。

梅田:いや、やばくなくても「貸してください」でいいんだよ。

雨宮:普通はそうなんだけどね。まずどこまで言えばOKなのかなと思って。

梅田:まず、借りる前に自分のおしりが綺麗なことを伝える。

雨宮:何の話ですか(笑)。そうすると貸してくれる?

梅田:いや、貸さないと拒否された場合、それでもどうやって貸してもらうかという話でしょう?

雨宮:おしりは関係ないと思うけど、どのくらいだったら「それでは貸しましょう」ってなるのかな。…団地、見えてはいるけれど、なかなかたどり着かないですね。

―区画が入り組んでいて、まっすぐに向かえてませんね。

梅田:我々も他人から見たら変な状況ですね。1人が自転車乗りながら自転車押して、3人歩きで、1人はちょっと離れて撮影している。

―たしかに。自転車にもう1人乗ったらええやんみたいな。

梅田:この間、上海に夜中に着いて、ホテルのフロントで「ごはん食べたいんだけど?」と聞いたんですよ。「目の前の通りは全部オープンしてるよ」と言われて歩いて行ってみたら、本当にその通りだけがビヤーっと開いていて、すべてのお店がザリガニ屋さんなんだよ。

―へー、日本のザリガニと違うんですかね。

梅田:上海のザリガニは、ちょっと太めでしたね。その通りに入った瞬間、寝ているおじいちゃんをカートで押しているおじいちゃんが歩いていて、向こうから猿を肩に乗せたおじさんが近づいてきたと思ったら、その猿を僕に巻きつけてきたんですよ。「うわーうわーっ」って驚いていたら、今度はザリガニ屋のお兄さんたちが僕の腕を両側から引っ張って「食ってけ」と。猿巻きつけられて両腕引っ張られながら、おじいさんを押しているおじいさんに通り過ぎられるという状況にいきなり遭遇しました。

雨宮:つっこめる要素があり過ぎる(笑)。

梅田:結局、すべて商売だったんですよ。おじいさんを押しているおじいさんは、病人だからって施しを狙ってるみたいです。猿の人もしつこく僕に「金払え」と言っていました。むしろ、猿に触られて嫌だったんだけどな……。

―そうこうしているうちに、千島団地のふもとに着きましたよ。中に入りますか?

梅田:もちろん。

雨宮:意外に静かですね。

梅田:この時間、だいたい子どもが鬼ごっこやっていそうですけどね。「何階には行ったらあかん」みたいな。

雨宮:オリジナルのルールを決めてね。

梅田:うるさくすると怒る人がいる階にはいかないとか。

雨宮:年に1回だけ、団地の棟を挟んで10分ずつ思いきり悪口言っていい時間とかつくりたいですね。

―せっかく棟が向かい合ってますからね。団地ならではの新行事。

梅田:一斉に何かできるよね。前に作品で、山からホテルの屋上にかけて雨どいを渡したことがあって。最初に細い紐を渡すんですね。木と木の間を狙って、紐を巻きつけた石をヒュッと投げて、それを両側からピンと張ったら、ファーってトンボが集まってきて、その紐に止まったんですよ。

―「待ってました!」みたいな?

梅田:でもその後で、黒っぽい雨どいを紐の上に乗せたら、全然トンボが来なかった。最終的に沢から山水を引いてきて、ホテルの屋上に貯めるという仕掛けだったんですけど、水が流れてきたら、またすぐにトンボがファーってやってきましたね。

―トンボの目に見えるか、見えないか。

梅田:そうですね。水に光が反射して見えるようになったのかな。

―ここの団地の棟と棟の間にも何かを渡したくなりますね。

 

ヨーテボリの団地/過酷な環境/潮の満ち引き/隠されたライター

―千島団地の上の階にも上がってみましょうか。

梅田:スウェーデンのヨーテボリで、この団地より大きな団地があって、住人の間で食べ物や電気製品などの生活に関わる物品をシェアする意識が高いんですね。

―どういうことですか?

梅田:極端な例だと、朝起きると知らない人が部屋に入ってきて、勝手に冷蔵庫開けてチーズを食べているとか。そこの1階にはカフェがあって、無料でコーヒーなどが飲めるんだけど、後日必ずお金ではない形で、店に何か返さなくちゃいけない。クッキーを多めに焼いて、余った分を持ってくるとかね。

―そんな団地がもう実現してるとは…。

梅田:あるんです。ITヒッピーみたいなコミュニティ。

―大規模な集合住宅でそれをちゃんとやれてるとしたらすごいですね。さて、15階につきました。まず廊下が長い。そして、窓からは大正区が見渡せます。

梅田:あ、なみはや大橋が見えますね。一番好きな場所なんです。

雨宮:どれですか?

梅田:奥に見えてる水色の橋。以前スタジオが大阪港にあったので、必ずあの橋を往復していたんです。

―自転車で渡ると、すごく体力使いそう。

梅田:ホームセンターでペンキを買ってカゴに入れてこいでいたら、坂を下りたところでおばちゃんをよけようとして、フェンスに当たって吹っ飛んだことがあります。後ろから友達が写真撮りながらついてきてたけど、追いついてみると橋の下で僕が赤いペンキをぶちまけて倒れているという。

雨宮:見た感じは死んでるね(笑)。あの橋の手前に、バッタが釣りしているような巨大な黒い物体が見えるけど…。

―巨大なクレーンですね。船で川をいく『7つの船』という企画を準備されているわけですが、作品をつくる環境としては、気温や天候など、いろんな制約がありそうですね。

梅田:観客に過酷さを強いたくはありませんが、つくる立場としては、ある程度、過酷な環境の中でそれに精一杯抗う方が作品をつくりやすい。何でもできるところでは、つくれないですよ。必要がなさすぎて。

雨宮:実は、僕けっこうこわいんですよ。海の近くで育っていないのもあるし、工場も近くにないから、なんかこわい。風景としても暴力的だし。

―かなりハードコアな風景です。

雨宮:梅田さんとつくる作品って、少なからずそういうところがあるよね。

―大正のこのあたりは、橋やクレーンなど、人間のスケールを超えた物も少なくないですね。

雨宮:あと、潮の満ち引きみたいなことが体感的にあんまりわかっていないから、船に乗っていてもどっちに動いているか、よくわからないんですよね。だから、自分がどういうピンチになるか想像できなくてゾクゾクする。

梅田:特に大正の南側は、せめぎ合ってるまちなみじゃないですか。海とまちの際は人の手が入りつつある過程が見えているというだけで、ほとんどの場所がこういう過程を経てきているわけでしょう。水際はそれが特にむきだしになってる状態なだけだと思うんですよ。

―なるほど。ちなみに、千島団地からは大正の北側から、大阪の中心地・梅田の方まで見渡せます。まさに人の手が入りこんで、複雑になったまちなみですね。

梅田:大阪ドームがど正面に見えるじゃないですか。

雨宮:あんな形しているんだ。

梅田:大阪ドームの中身って、何が入っているんですかね?

雨宮:……なんか食物系な気がしますよ。

―正解は?

梅田:野球とかじゃないですか。

―そろそろ、行きましょうか(笑)。

梅田:…誰かがここのベランダ、喫煙所に使ってますね。なぜなら、ここにライターを隠し置いてる人がいるから。

―刑事コロンボばりの推理力ですね。

文:永江大 写真:沖本明 編集:竹内厚

→梅田哲也さん、雨宮庸介さんとの「さんかつ#03」

次回は大正区を横断し尻無川へ。途中いろんな道草をしながら、2つ目の渡船に乗り込みます。


散歩と観察とは

デザイナー、アーティスト、建築家といった、独自のまなざしを持つ方々といっしょに町を歩きます。お題は、パブリックなモノやコト。公園、ベンチ、駅、図書館、路地、空き地、看板などなど、その観察眼はどこへ向けられるでしょうか。