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山納洋(大阪ガス近畿圏部 都市魅力研究室/Walkin'About)
around
長田~長田神社~高取山 〈神戸市〉

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団地のような集合住宅の大きな特徴は、共有スペースのあること。
じゃあ、より視野を広げて、まちの共有空間、パブリックな場を見てみよう! というところから始まった企画「散歩と観察」。

今回のゲスト、山納洋さんは現在、大阪ガス近畿圏部の都市魅力研究室に在籍しながら、さまざまなスタイルで町をフィールドワークしています。

特に、「Walkin’About」という取り組みは、ガイド不在のまち歩き企画として、とてもフレッシュ。やり方は簡単です。参加者が思い思いにまちを散策して、90分後に再集合、各自が見聞きしてきた体験をシェアしあうというもの。こうした企画を通して、山納さんはまちをいかに見て、どう読み解くかを日々、実践されています。

5月のある午前中、神戸と須磨の間に位置する、高速長田駅からまち歩きをスタートしました。

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山納洋
大阪にあった複合的カルチャー拠点・扇町ミュージアムスクエアから、メビック扇町、そして、大阪21世紀協会のプロデューサーを経て、現在は大阪ガス近畿圏部の都市魅力研究室に在籍。日替わり店主によるカフェ「コモンカフェ」のプロデュースでも知られる。著書に『カフェという場のつくり方』(学芸出版社)。

#01

正方形の区画/古い喫茶店/焼失した市場

―高速長田駅の改札口で待ち合わせました。

山納:まずは、駅周辺の地図を見てみましょう。すぐに気づくこととして、まちの区画が正方形になっていますね。

―ほんとにきれいな碁盤の目になっていますね。

これは、大正期に耕地整理をおこなう際に、奈良時代の条里制をもとにしたようなんです。だから、だいたい1辺が100mくらいのきれいな正方形に。このことを覚えておいてください。

―地図から気づけることもあるんですね。

駅を出て海側、南の方へ向かいましょう。…駅のすぐそばに、まだ中には入ってないんですけど、気になっている喫茶店があります。

―喫茶店「ぱるふあん」。入り口からしてツカミがいい! 山納さんは喫茶店によく行かれてますよね。

ですね。カフェというよりも、古い喫茶店好きです。喫茶店で話を聞くだけでも、まちの一次情報がとれますから。実は、さっきも集合前に1軒行ってきました。そこで仕入れた話もあるので、後でお話しますね。

―喫茶店での聴きこみリサーチ、気になります。

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向こうにJRが通っていて、その奥に川崎重工が見えます。鉄道車両をつくっているところですね。そのさらに先にはカーオーディオメーカーの富士通テン、そして海際には三菱重工業の工場があります。

―高速長田からまっすぐ、巨大な工場エリアへ道が通じている。

高速長田から歩いて通勤されている方もいますけど、三菱重工の造船部門が長崎に移ったりして、かなり働くひとが減っているようですね。この道路沿いに「味彩館」というスーパーがあります。

―普通のスーパーマーケットのようですが…?

そう見えますよね。ここは、もと菅原市場だったところなんですけど、阪神大震災であたり一帯が焼失しました。菅原市場には37軒のお店があったそうですけど、そのうちの5軒が共同で「味彩館」として復興したんです。

―そんな経緯で生まれたところなんですね。ぱっと見たかぎりではわかりませんけど、気をつけて見てみると、店頭の庇に「Sugahara」の文字、寅さんのロケがあったという看板も設置されています。

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震災から半年後でしたっけ、まだ焼けたままになっていた市場の跡で『男はつらいよ』のロケが行われたんですね。…平成7年10月25日からロケが始まったと書いてありますね。

―菅原市場にあった、のこりの店はどうなったんでしょう。

それは、「味彩館」の裏手へ行くとわかります。


すいせん公園/減歩/店で声を拾う

―「味彩館」の裏には公園が広がっています。

山納:公園の周りに、鶏、魚、惣菜、昆布といったお店が目につきます。菅原市場のあった土地に愛着のある方は、この場所で再建をして、その真ん中が公共空間として「すがはらすいせん公園」になってるんですね。

―公園を取り囲むように店が並んでいるって、ちょっと不思議なようにも見えますけど、そうか、震災前の菅原市場を想像すれば、自然なことなんですね。

公園内には、昔の市場の写真、被災した後の写真が紹介されています。公園の名前は、被災したこの地区に天皇皇后両陛下が来られて、水仙の花束を渡したということに由来しています。

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―その水仙の花束も公園の一角に保存されていますね。震災からこっち、またあたらしい歴史が刻まれはじめているのが目に見えてわかります。

以前はものすごく家や店が密集していた場所だと思いますけど、先ほど地図で見たように100m単位の区割りの中に広く道をとって、公園のような緑地をつくって、二度と延焼の起こらないように再設計されたんですね。

―この公園もそうですけど、実際にこのあたりを歩いてみると、両サイドに歩道のついた道路が縦横に走っていて、ものすごく計画的な区割りが感じられます。

これは今朝、近所の喫茶店で聞いたことですけど、「減歩(げんぶ)」といって、土地区画整理の際に、道路や公園をつくるために、民間の土地をちょっとずつ提供するんですね。

―ゆったりとした道路や区割りは、住んでいたみんなの私有地を集めてできたものでしたか。

そう。だから、そのことをコボす人もいるそうです。ここまで広い歩道が本当に必要なのかというのもありますし、減歩に対応できずに、まちを出ていった人も多かったそうです。だから、なじみ客が減ってしまったと。

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―それが今朝、喫茶店で聞きたてほやほやの話ですね。

モーニングを食べながら聞きました。

―いつもどうやって話を聞き出しているんですか。

ふつうに好奇心のある、喫茶店好きな客という感じでいます。「このお店は何年からやってるんですか。あーそれじゃあ、震災前からですね」って、どんどん入っていく。話を聞きやすいのは喫茶店か居酒屋ですね。

―なるほど。

そうすると本には書かれてないような、生の体験談を聞けますから。店への興味というのは、もともとは、「コモンカフェ」っていう、店主が日替わりで替わる店を自分が開いたところから始まっています。日替わり店主という、普通ではないお店をはじめたことで地域で何十年も続いている店というのは、どんな店主とどんなお客さんがいて、どうやって成立しているのかをちゃんと勉強したいと思いまして。最初はそうやって店のことを考えていたんですけど、徐々にまちのこと、地域のことが見えてきたんです。

―店のそもそもを自主研究していたら、まちへとたどり着いたと。

ですね。よほど、まちがおもしろくなってきました。

―喫茶店や居酒屋での聴きこみの他に、山納さんがまち歩きでよく使う“必殺技”はありますか。

基本的なことですが、古地図はよく見ます。明治・大正期に大日本帝国陸地測量部が作成した地図は、国土地理院で手に入ります。あとは、川など水の流れを意識して、まちを歩くとおもしろいですね。長らく、水の流れが物流の経路として使われてきましたので。

―まちの昔をたどりやすいんですね。

神社なんかでもそうですけど、50年前100年前を想像したときに今と変わらずあったものは何か。それがわかってくると、町の見通しがよくなってきます。「Walkin’About」であちこちのまちへ行ってるのは、町を読み解くためのツールをとにかく増やしたいからなんです。

文:竹内厚 写真:バンリ

→ 山納洋さんとの「さんかつ#02」は6月1日更新予定
高速長田の海側から今度は山側へ。まち歩きの延長で自然と山登りに。海、山、川、まち…これぞ神戸のダイナミズム!


散歩と観察とは

デザイナー、アーティスト、建築家といった、独自のまなざしを持つ方々といっしょに町を歩きます。お題は、パブリックなモノやコト。公園、ベンチ、駅、図書館、路地、空き地、看板などなど、その観察眼はどこへ向けられるでしょうか。