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山尾光平 aka BAKIBAKI(画家)
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塚本~淀川~十三〈大阪市〉

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散歩のスピードでこそ見えてくる街のギザギザがある。今回、“さんかつ”に登場してくれるのはBAKIBAKIことアーティストの山尾光平さん。

山尾さんは京都、東京を経て、現在、大阪・十三にスタジオを構えています。「十三光スタジオ」と名付けられたそのスペースは元・工場。訪れた際は、仮想空間にペイントできる、というなんともアメイジングな技術を使った作品制作の真っ只中でした。

周りの工場からは迫力ある機械音が断続的に響く中、「十三光スタジオ」から散歩に出発、ぷらぷらと淀川の方へと向かいます。

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山尾光平 aka BAKIBAKI
大阪市出身の画家、アーティスト。直線とその鋭角が激しく連なる、まさしく“バキバキ”と織り成す独自のスタイルで知られ、大山康太郎 aka MonとのライブペイントデュオDOPPELのメンバーとしても活動。1978年生まれ。

 

#01

 

おじいちゃんの工場/工場の街/日本一の高架

—このスタジオ、すごく天井が高いですね。

山尾:そうそう、もともと自分のおじいちゃんの工場で。十三の駅からも少し離れているけど、大きな作品を作れるし、落ち着いて制作はできる環境かな。

—ここにスタジオを構えてどのくらいです?

まだ半年くらい。もともと作品の倉庫として使ったりはしてたんやけど。

—周りも工場が多いエリアですけど、どんな感じで受け止められてますか。

「なんか分からんけど、あの工場に絵描きの孫が来たんやー」って感じかな。やっぱり人情があるっていうのか、いいひとが多いという印象。パーティーをやると近所のひとが来てくれたりとか。

—この環境での制作はいかがです?

周りの工場のひとは当然、がっちり仕事してはるから、自分らみたいにユルくはやってない。そこが刺激になってるかも。朝の8時くらいからけっこう夜遅くまで、活動してる音がギッコンバッタンと鳴ってる感じがインダストリアルで、それもむしろ心地よくて。あー動いてるな、働いてるなって感じ。

—なるほど、うかうか寝てられない、工場エリアの勤勉さですね。それにしても、なかなかハードコアな町並みです。

工場のウェアハウス感というか雰囲気、たとえば、鎖で作品飾ってます!ぐらいのワイルドな感じは、自分らのスタイルにも合ってるかなとは思ってるけど。でも、大阪市内にこれだけ工場が密集してるエリアは意外にないかも。

—たしかに新鮮です。

ここだけで完結してたら、しんどくなるかもしれないけど、幸い仕事でいろんな土地に行くので。そこから帰ってくる場所としてはすごく気に入ってるかな。

―…うわ、ものすごく低い高架下っ!

そうそう。電車が走ってるのは見たことないんやけど。

—近所の方が自転車ですいすい通り抜けていくのが面白いですね。みんな首をかしげて。慣れてるし、ちょっと笑ってる。

なんか笑っちゃうよね。

―しかも線路むきだし。どうやら日本一低いガード下だそうです。

うん、すごいでしょ?(笑)。

 

 

ポケモンGO/SSの看板/緑のトンネル

—山尾さんはふだん散歩したりしますか?

山尾:最近は、ポケモンGOでうろうろ散策したり(笑)。

—おーポケモンGO、散歩のきっかけになってますよね。

この辺はしょぼいのしか出ないけど(笑)。あっあれ見て。SSのマークの工場の看板、すごくデカいでしょ。

—ほんとですね。この工場地帯で誰に向けてアピールしているのか…。まさか、伊丹空港に降りてくる飛行機の旅客!? でも、かっこいい。

ほんま(笑)。

—「十三光スタジオ」としての野望はあります?

そうやね、たとえば、ちょっとずつ工場のシャッターに壁画を描いたりして、この街が色づいていったらおもしろいかな、という構想はあるけど、まぁ焦ってやることじゃないし。時間かけて地元のひとと仲良くなれたら、と考えています。

—じっくり腰を落ち着けて、と。

瞬間的にやるだけやって盛り上げて、という考えはなくて、長期的にできればと思ってる。壁に絵を描いてるだけのように見えても、結局、ひと対ひとの話やしね。

—大きな作品制作ができることの他に環境からの影響は何かあります?

まだ作品には活かせてないけど、鉄だったり木だったり、そんな素材を使うかも。今後、発展性はあると思ってるけど。

—ぜひ期待します。…緑の多い遊歩道がそのままトンネルのようになってきました。

ここは好きなところ。これは…グラフィティというか宇宙語(笑)って感じかな。

—象形文字のような。酔っ払いが描いたのかも?

その可能性はありますね。

—川がありトンネルがあり、線路があり高架下があり、けっこう立体的に入り組んだ街なんですね。

そうそう。それは特徴的かな。

—学生時代に京都に出て、そして東京に約10年。今度また大阪に戻ってきた山尾さんの眼には、この複雑な街はどう映ります?

アートの面で言うと、借景じゃないけど、街との親和性が高いのはやっぱり京都で。望んだわけではないけど、自分の絵柄が京都の和柄なんかとも交わりやすいみたいでコラボレーションもやってきたし。

—ホテルアンテルーム京都の外観も手がけてますよね。BAKIBAKI柄はデザインホテルにちょうどあう和柄、そういう風にも見えます。

その点、大阪の街はつかみにくい、というか、自分の中でカテゴライズしにくいところがある。

—大阪の街はつかみにくい?

自分の出身が大阪で親戚もみんな大阪なので、初めから近すぎて、街も人も客観的に見えないところもある。街として京都よりもデカいし、エリアによっていろんな特色があるからね。

 

 

地面のマーク/ポップすぎる車/公共の概念

—銭湯の煙突が見えてきました。八丁温泉。

山尾:ぼくのレパートリーのひとつ。あそこいいですよ。

—気になるのは、やたらと行き来している人が多いこと。

そうそう(笑)。あと、この街は小さい公園が多くて。ポケモンGOで、ポケストップになってることもあって気づいたんですけど。

―確かに工場多め、緑多め、人多めな街ですね。変な形の公園に不動産の事情、というより土地の歴史を感じます。地面に描かれた水道の配管のマークもかなり目立ってますが、グラフィティとして見ると?

これはかっこいいな、この記号。地面に描くこともなかなかないしね。うわっ!

—ものすごく派手な車が駐車してますね。刃物研ぎの車。

刃物という危険なものを扱ってるのに、すごくポップで、先が丸い感じ(笑)。ホログラムな感じもすごい。これはぜひお願いしたくなる。

—刃物を研ぎたい!という気持ちが伝わってきます。街を歩きながら「この壁に描きたい」とか思うことはあります?

単純に、この白い壁はいいな、でもボコボコしてるから描きにくいかな、とかは思ってたりするかな。自分の場合は、許可なく描くことはしてないけど、もし近所のどこかの壁にひとつ描かせてもらえたら、うちも描いて!って言われるんじゃないかな、とかは考える。けど…。

—けど…?

うーん、グラフィティやストリートアートにおいて、公共の概念が海外と日本では極端に違うというのを感じていて。

—どういうことです?

みんなのものだから誰のものでもない、という考えを強く感じるかな。公共の場に特定の誰かが描くということに関して、絶対に反対の意見があるし、反対されることはいいけど、そこで交渉したりがなかなかできなかったり。

—その点、海外ではスムーズ?

もう少し街のひととコミュニケーションができる、かな。どうしたら前に進むかを一緒に考えようとするスタンスがある。

—なるほど。…ここは自動車教習所ですね。大きなソテツがたくさんあって南国ムード。

もうちょっとしたら無くなるみたいやけど。

—たとえば、あのブルーのラインが入った壁を描いてくれと頼まれたら?

まず、この近所を散歩しながら考えたりするかな。あのブルーのラインからカクって曲がったラインを描いてみるところ始めるとか、ブルーのラインの太さですべてを描くとか、いろいろ考えてみる。

―と話してるうちに、塚本駅まで歩いてきました。生活感が強く漂う駅前です。

うん、大阪駅からひと駅、淀川を越えるだけでこの感じ、というのがすごいね。

—これぞリアルな大阪なのかも。あ、淀川が見えてきましたね。

取材・文:中村悠介 写真:沖本明 編集:竹内厚

次回は、淀川の河川敷から十三駅へ。
河川敷ではポケモンGOに熱中するおじいさんが。それも当たり前かもしれない2016年の夏、です。


散歩と観察とは

デザイナー、アーティスト、建築家といった、独自のまなざしを持つ方々といっしょに町を歩きます。お題は、パブリックなモノやコト。公園、ベンチ、駅、図書館、路地、空き地、看板などなど、その観察眼はどこへ向けられるでしょうか。